タカシがユナやトミーを見掛ける少し前の話――の続きだ。
リンドウ北部になだれ込んで来た魔物は、まずは一般住民が戦って時間を稼いだ。
続いて、ブギー、ジョー、ケフィ、ロッシュたち鉱山戦力がゴブリンの数を減らす。
さらには治安維持隊が到着し、ホブゴブリンたちにも対処していった。
しかしそこに、新たな脅威が襲う。
「ギャオオオオオォ!!」
「こいつ……まさか!? ゴブリンキングか!?」
「こんな大物、初めて見たぞ……」
キサラやヤックルも驚く存在が現れた。
ゴブリンキング――ゴブリンの上位種だ。
ホブゴブリンやゴブリンジェネラルよりも上の存在である。
当然、その戦闘能力は高い。
「グルルルォオオオオ!!!」
「「ゴブッ! ゴブーッ!」」
ゴブリンキングが号令をかけると、後方から追加のゴブリンたちが現れる。
さらにホブゴブリンやゴブリンジェネラルまで現れた。
「ちぃっ! どうしてゴブリンキングなんて大物が……」
「ヤックル隊長! 一度退きましょう!!」
「建物の被害を我慢して陣形を整えれば……ゴブリンキングだって倒せるはずです!」
「しかし……ハイブリッジ男爵様に任された街を、そう簡単に荒らされるわけには……」
ゴブリンキングが出てきたことにより、戦況は一気に不利になった。
このままではマズイ。
誰しもがそう思っていた。
だが、隊長のヤックルは一時撤退を決断できない。
何とかこれ以上の被害を出さない方法はないのか。
彼が悩んでいる時だった。
「――【ハンドレッド・ファイアーアロー】!!」
「「ギャオオォッ!?」」
上空から炎の矢の雨が降る。
その雨は、ゴブリンキングにこそ当たらなかったが、それ以外のゴブリンやホブゴブリンたちを焼き払っていく。
さらに――
「【エアバースト】!!」
「グルッ!?」
風の塊がゴブリンキングをよろけさせる。
その隙に、2人の男女がヤックルたちの前に降り立った。
「ふふん。待たせたわね! 援軍よ!!」
「ユナ様!? それに……トミー殿まで!」
「遅れてすまん。街の反対側にいたもんでな」
それはユナとトミーだった。
2人はリンドウの常在戦力ではない。
ユナは気ままな散歩中であり、トミーは諸用でリンドウを訪れていた。
しかし偶然どちらも街の反対側にいたため、駆けつけるのが遅れたのだ。
「おおっ! 『魔弾』のユナ様だ! Bランク冒険者だぞ! 彼女がいれば、ゴブリンキングだって怖くないぜ!!」
「Cランクパーティ『緑の嵐』リーダーのトミーもいる! Bランク間近っていう噂もある彼なら、ゴブリンたちを始末してくれるぞ! これで勝ったも同然だな!!」
「リンドウの……いや、ハイブリッジ男爵領の英雄たちだ! この目で見ることができるとは!!」
ユナの登場により、住民たちは一気に活気を取り戻す。
そんな彼らの様子を確認した上で、ユナは宣言する。
「ゴブリンキングを倒すには、それなりの魔法が必要になるわ! あんたたち、邪魔だから下がって――」
「「「ユナ様! ユナ様! うおおおぉっ!!」」」
「お前ら、ちゃんと聞け! いくらユナ様だって、ゴブリンキングを片手で倒したりはできねぇんだぞ!! 巻き添えにならないよう、しっかりと後ろに――」
「「「わあああぁっ! トミー! トミー!」」」
「き、聞いちゃいねぇ……」
ユナやトミーの言葉を聞かず、住民たちは熱狂している。
それも仕方ないかもしれない。
リンドウにも、ハイブリッジ男爵家の配下は常駐している。
採掘場統括者のブギー、ジョー、ケフィ。
リンドウ治安維持隊のヤックル、キサラ。
リンドウ温泉開発担当官のアビー。
リンドウ酒場の店長にして、影の実力者とも言われるトパーズ。
このあたりが有名で、影響力もそれなりにある。
しかし、あくまでそれはリンドウ内での話だ。
ハイブリッジ男爵家全体から見れば、その影響力はたかが知れている。
そんな中で、領主の第五夫人にして『魔弾』の二つ名を持つBランク冒険者のユナがやって来たのだ。
そしてついでに、Bランク間近とも噂される御用達冒険者のトミーの姿もある。
盛り上がるなという方が無理があるだろう。
ゴブリンキングを前にして、ユナとトミーは少しばかり困った状態に陥るのだった。
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