俺は『猫のゆりかご亭』のスイートルームにいる。
モニカ、ニム、サーニャちゃんは買い物に行った。
他の宿泊客は、ダダダ団を警戒して出て行っている。
今は、宿内に俺一人だけだ。
そんな俺に、招かれざる客がやって来た。
チンピラ3人組だ。
彼らはベッド上の膨らみに気付くと、短剣を躊躇うことなく突き刺した。
(おいおい、物騒なことをするじゃないか……。俺がガチで寝ていたら、ヤバかったかもしれんぞ)
俺は天井付近に貼り付いたまま、そんなことを考える。
チートスキル『ステータス操作』を存分に活用している俺は、様々なスキルを持っている。
寝ている時にも一定量の闘気を纏っているし、治療魔法『リジェネレーション』で常時回復している。
そのためある程度の不意打ちを受けても即死することはない。
とはいえ、今回のように複数人から勢いよく短剣を突き刺されていたら、少しばかりマズかった可能性はある。
「くく……。俺たちダダダ団に歯向かうからこうなるのさ」
「Dランク冒険者のくせに生意気なんだよ! 聞いた話じゃ、美人を2人も連れているらしいじゃねぇか」
「へへ。安心してくたばるんだな。お前の女は、俺たちでたっぷりと可愛がってやるからよぉ」
謎の侵入者たちは、やはりダダダ団の構成員だったらしい。
昼間の件で、報復にやって来たのだろう。
物騒だが、理屈は分かる。
マフィアというのは舐められたら終わりだからな。
歯向かった奴は、見せしめにする必要があるのだ。
「さて、そろそろ引き上げようぜ」
「そうだな。これ以上ここにいても仕方ねぇし、アジトに帰るか」
「まぁ待てって。ついでだし、死んだコイツから身ぐるみを剥いでおこう。多少の小遣い稼ぎにはなるだろう」
「はは! そりゃいい! お前は賢いな!!」
「ま、これも長年の知恵ってことよ」
男たちが笑う。
躊躇いなくベッド上の膨らみに短剣を突き刺したり、軽い気持ちで身ぐるみを剥ごうとしたり……。
コイツらは結構な悪人だな。
王都にいた『闇蛇団』も悪い奴らだったが、人殺しはしていなかったはずだぞ。
(いや、これも闇の瘴気の影響があるのか……?)
ネルエラ陛下の話では、闇の瘴気の脅威が年々上がっているということだった。
それに対抗するための聖魔法の開発や習得が急がれているが、まだまだ不十分だ。
特にこういう地方都市までは手が回っていない。
浄化されないまま定着した闇の瘴気が連中の悪意を増幅している可能性はある。
(ま、どうでもいいことか。どの道、倒す以外に選択肢はない)
ダダダ団は俺の敵だ。
コイツらが邪魔をしているせいで、隠密小型船の完成が遅れている。
それに、奴らはオルフェスの町民にとっても迷惑極まりない存在だ。
殺しはしないが、ここらで舞台から退場してもらおう。
隷属契約で縛って、死ぬまでリンドウ鉱山で働かせるのがいい。
俺はそんなことを考えつつ、奴らの隙を伺う。
「……ん? おい、何か変じゃねぇか?」
「あん? 何がだ?」
「このベッド上の膨らみだよ。俺たちで短剣を突き刺してやったのに、血が出てないぞ?」
「……そういえば、確かにおかしいな。それに、刺した時の感触もどこか妙だった気がする」
「おいおい……。勘弁してくれよ。なら、俺たちが刺したのは何だったっていうんだ?」
「…………」
チンピラたちの間に微妙かつ嫌な空気が流れる。
俺は天井付近に浮かび上がったまま、その様子を見守っていた。
「しゃらくせぇ! 布団をめくって確かめりゃ済むことだ!! 行くぞ!!」
「お、おお!」
「わ、分かったぜ」
チンピラたちは意を決した様子でベッドへと駆け寄る。
そして、一気に布団をまくった。
「な、なんじゃこりゃあ!?」
「これは一体どういうことなんだ……!?」
「な、な、な、な……」
チンピラたちが驚きの声を上げる。
彼らの短剣は、確かに深々と突き刺さっていた。
俺が身代わりとして置いておいた粘土人形の体へ、だ。
そして、その顔の部分には――
「クソがぁっ! 舐めやがって!!」
「『ハズレ』だと!? 奴め、俺たちの襲撃を察知していたっていうのか!」
「あり得ねぇ! 話じゃ、無謀なだけの下級冒険者ってことだったはずだろ!?」
3人の男たちは、慌てふためきながらそう叫ぶのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!