「ふむ。ここに来るのも久しぶりだ。あまり変わっていないな」
「ハッハ! そうだろうとも!」
「アダマンタイトの岩をどうにかできない限り、先へは進めませんからね」
俺の言葉を受け、ブギー頭領とジョー副棟梁がそう言う。
俺たちは今、リンドウの古代遺跡の入口付近にいた。
例のアダマンタイトの巨石が行き先を阻んでいる場所である。
「ふふふ。いよいよ、この古代遺跡も終わりです! タカシ様によって攻略されるのですから!!」
「いや、終わりはしないって。俺をなんだと思っているんだ。まぁ、最終的にしっかりと調査はするけどな」
「楽しみなんだよ。古代遺跡には、現代の技術では再現できない魔道具が眠っていることもあるんだよ。きっと、見たこともないアーティファクトとかもあるはずなんだよ」
「アーティファクトかー。確かに、そういうものがあればいいね」
ミティ、俺、ジェイネフェリア、アイリスが思い思いの言葉を口にする。
魔道具というのは、非常に有用な道具が多い。
例えば、火の魔道具。
魔石を使って火を起こすことで、誰でも簡単に火が使えるようになる。
あるいは、水の魔道具。
魔石を水に変換して、いつでもどこでも水が飲める。
また、光の魔道具。
魔石の光量を上げることで、暗闇でも昼間のように明るくできる。
これらの魔道具は、生活水準を大きく向上させるだろう。
今挙げたものは、現代でも製造可能なものである。
だが、魔道具の中には技術が失伝してしまっているものも存在する。
そういったものは、アーティファクトと呼ばれるのだ。
「それじゃあ、さっそく取り掛かるとしよう」
「おう。頼むぜ、タカシの坊主」
「タカシ殿、お願いします」
ブギー頭領とジョー副頭領に見送られながら、俺は巨石に近づく。
まずはアイテムルームから、アダマンタイト粉砕機を引っ張り出し、巨石の前に仮置きした。
「よし、いい感じのサイズ感だな」
俺は満足げに微笑む。
小さすぎると、出力が足りずにアダマンタイトを粉砕できない。
しかし大きすぎると、古代遺跡の入口付近というこの場所に収まりきらない可能性もあった。
「おお、そいつが噂に聞く魔道具か。デカいな」
「そちらのお嬢さん……ジェイネフェリア殿がこれを作られたのですね? 凄まじいものです」
ブギー頭領とジョー副頭領が興味深そうに眺めている。
ジェイネフェリアはお嬢さんではなくて男なのだが、まぁいちいち訂正するほどでもないか。
彼の容姿は中性的なので、女と間違われることも多い。
そんなことより、作業を進めよう。
「ネフィ、位置取りはどうだ? 指示をくれ」
「ええっと、もう少し右なんだよ。アダマンタイトの中央から敢えてずらした位置を狙うんだよ」
「了解。ミティ、手伝ってくれ」
「はい!」
ミティが腕まくりをして近寄ってくる。
彼女の腕力は、ミリオンズ随一だ。
頼りになる。
「「せぇのぉ!」」
俺とミティが、アダマンタイト粉砕機を持ち上げ、位置を微調整していく。
「うん、それくらいでいいんだよ」
「分かった」
ジェイネフェリアのオーケーが出た。
これで準備完了だ。
「あとは魔力を込めて、スイッチを入れるだけなんだよ。そうしたら、このアダマンタイトの巨石に穴があくと思うんだよ」
「ああ。いくつかの穴をあければ、いずれ岩全体に亀裂が入り砕けるだろう。そうなれば、あとは簡単だ。人力で運ぶなり、俺のアイテムルームに収納したりすればいい」
少し前にも触れたが、アイテムボックスやアイテムルームに収納できる量には限りがある。
主に関係するのは、その物体の質量や体積だ。
重くて大きい物はそれだけ多くの容量を必要とする。
また、普段はあまり意識しないがそれ以外の要素もある。
例えば、魔力。
多くの魔力を帯びた物体は、収納することが難しくなる。
俺が”白銀の剣士”ソフィアからもらった『光の精霊石』のように小さな物であれば、それほどでもないが……。
このあたりは乗算の関係となる。
そして、周囲の物体と物理的に切り離されているかも重要だ。
例えば、地面の一部だけを切り取ってアイテムルームに収納することは難しい。
また、街を歩く人の服だけをアイテムルームに収納するのも難しかったりする。
それができれば、『ドキッ! 大通りを普通に歩いているだけの善良な町娘をいきなり全裸に! トラウマ必須の強制露出大会!!』なんてことも不可能ではないのだが、現実は難しいのである。
いや、できたからってそんなことはしないけどな?
――いずれにせよ、今回のアダマンタイトの巨石は悪い条件が揃っていることは間違いない。
とても重く、通路を塞ぐほど大きく、特殊な鉱石として一定の魔力を帯びていて、通路を塞ぐような位置取りで通路と半ば一体化しているからだ。
これでは、いくら俺の魔力がチート級であっても、そのままアイテムルームに収納することはできない。
ジェイネフェリアが用意してくれたアダマンタイト粉砕機を活用する必要がある。
「はああぁ……!」
「おお、凄ぇ魔力だ!」
「これは驚きました……。タカシ殿の実力はますます上がっておられるご様子……」
「タカシ様なら当然のことです!」
俺がアダマンタイト粉砕機に魔力を込めると、それに呼応するように周囲に風が巻き起こる。
アダマンタイト粉砕機は、俺の膨大な魔力を受けて活性化していた。
俺が十分な魔力を込めたことで、アダマンタイト粉砕機のポテンシャルを最大限に引き出せたようだ。
「よし、魔力を込めて準備ができたぞ。ネフィ、頼む」
「うん、みんな離れるんだよ!」
ジェイネフェリアの言葉に従い、俺たちはアダマンタイト粉砕機から離れるのだった。
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