「えっと……」
「…………」
「桔梗、どうした?」
「むぅ……」
桔梗だった。
彼女は頬をぷくっと膨らませている。
そんな様子に俺が困惑していると……
「……他の人ばかりずるい」
「え?」
「……他の人ばかりずるい!!」
桔梗は叫ぶ。
そして、俺の腕へとしがみついてきた。
彼女の膨らみかけの胸の感触を二の腕に感じる。
素晴らしい感触だ。
「むー……」
「……えーと、あの……」
俺は桔梗が機嫌を損ねている理由を考える。
他の人ばかりずるい……。
紅葉、流華、そして無月のことか?
つまり、桔梗は自分も仲間に入れろと言いたいのだろう。
「そうか……」
俺は微笑ましく思った。
桔梗は、やや無口で落ち着いた雰囲気のある少女だった。
元より寡黙な性格だったのだろうが、武神流の師範代として気を張っていた面もあるはず。
だが、俺が武神流に入門して頭角を現しつつある上、ライバル道場である雷鳴流が壊滅状態にあることで、心に余裕が生まれたようだ。
年相応に感情を素直に出せるようになったらしい。
「もちろん、桔梗のことも大切に思っているさ」
俺は桔梗を優しく撫でる。
彼女は嬉しそうに、目を細めた。
……可愛いな。
「で、これからどうする? 武神流の修行は……」
「私に教えられることはもうない。あとは自主練習」
「ふむ……」
俺は少し残念に思う。
武神流は、俺がこれまでに身に付けてきた剣術とは系統が大きく異なる。
そのため、桔梗からもっと学びたかったのだが……。
「大丈夫。私はずっと高志くんの傍にいる」
「え?」
「私たちはずっと一緒。共に剣術の高みを目指そう?」
「あ、ああ……」
俺は桔梗の言葉に頷く。
そうか。
彼女はずっと俺と一緒にいるつもりなんだな。
それは嬉しい。
……でも、それってどういう感情なんだろう?
俺は彼女よりもかなり年上だ。
剣でのガチ勝負だって、魔力や闘気による身体強化を含めれば俺が格上。
ただ、身体強化を抑えた状態で純粋に剣術のみで戦うなら、俺が少し上な程度。
我流で培ってきた剣術を封印して武神流剣術の枠組みだけで戦うなら、立場は逆転して桔梗の方が上となる。
そのあたりの事情を踏まえ、俺は桔梗に敬意を持って接してきたし、彼女は俺を弟子として『くん』付けで呼んできた。
まぁ、そんな感じの師匠・弟子の関係だったのだが……。
拉致事件を解決に導き、武神流剣術を一通り吸収した今、その関係性にも変化が訪れつつあるのかもしれないな。
実際、それは忠義度にも現れている。
彼女が加護(小)の条件を満たしたのだ。
レベル?、柊木桔梗(ひいらぎききょう)
種族:ヒューマン
身分:平民
役割:謀反衆幹部
職業:剣士
ランク:ー
HP:??
MP:低め
腕力:高め
脚力:??
体力:??
器用:??
魔力:??
残りスキルポイント:???
スキル:
剣術レベル4(3+1)
???
若くして武神流の師範代を務めていただけのことはあり、剣術のスキルレベルは高めだ。
しかし、『とんでもなく強い稀代の超天才』……というほどでもない。
ま、本来の師範が怪我の療養中だったときの代理に過ぎなかったわけだしな。
師範の指導方針によって闘気術などの鍛錬も行われていなかったようだし、これから伸びる余地は大いに残っている。
そう前向きに考えよう。
「これからもよろしくな、桔梗」
「……うん!」
俺の言葉に、桔梗は嬉しそうだ。
彼女と一緒なら、さらなる剣術の高みを目指せるだろう。
俺はそう確信したのだった。
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