「トレーニングって、具体的には何をすればいいんだ?」
「そうだな。まずはスクワットだ」
俺はスクワットを提案する。
筋トレの王様とも評される種目だ。
大臀筋を含め、下半身の筋肉を総合的に鍛えることができる。
腕立て伏せで上半身を鍛えたりするのもいいが、流華の右手首はまだ回復できていないし……。
上体起こしで鍛えられる腹筋の効能は地味だ。
その点、スクワットによる下半身の強化は見栄えも良い。
流華の今後の成長にも役立つだろう。
「すくわっと? それって、どんなトレーニングなんだ?」
流華はスクワットを知らないらしい。
記憶はあやふやだが、俺はこの世界とは別の世界から来た転移者だったように思う。
そんな俺が言葉に困っていないのは、『異世界言語』のチートスキルがあるからだ。
しかし、今回の『スクワット』についてはうまく伝わらなかったようである。
この世界、あるいはこのあたりの地域には『筋トレ』という概念があまり広まっていないのかもしれない。
「スクワットとは、こんな感じのトレーニングだ」
俺は流華の前で実演してみせることにした。
スクワットはシンプルである。
地味かもしれないが、決して侮れない効果のある種目だ。
「まずは、肩幅に足を広げて立つ。そして、腰を落とす」
「……そ、そんな感じの動きか……」
流華がつぶやく。
彼は俺に背を向けたまま、首から上だけを俺のほうへ向けていた。
頑なな態度だな……。
体の正面を俺に見せたくないらしい。
いつかは男同士、風呂で裸の付き合いをすることもあるだろうが……。
今は無理に強要するまい。
俺は説明を続ける。
「腰を落としたあとは、また足を伸ばして立ち上がる。これを10回ぐらい繰り返すんだ」
「そ、そうか……」
流華が呟く。
しかし、一向に開始しようとしない。
「百聞は一見にしかず。さっそくやってみるといい」
「兄貴ぃ……。そ、その前に服を着させてくれないか? 今は着替えの途中だったはずだろ?」
流華が赤面しながら言う。
……。
なるほど、そういうことか。
先ほど、俺は流華の上半身を裸にした。
そして続けて、下半身のズボンを脱がせた。
今の彼は全裸である。
その状態でスクワットを行うのは、確かに恥ずかしいかもしれない。
「気にするな」
「え?」
「俺は気にしない。流華も、恥ずかしがる必要なんかないぞ」
俺はそう告げる。
流華は顔を真っ赤にした。
「い、いや。だから、オレが気にする――」
「男のくせにゴチャゴチャ言うな。俺がばっちり見ているから大丈夫だ。スクワット中の大臀筋の動き、しっかりと見せてもらうぞ」
俺は強引に話を進める。
床に寝そべり、視線は流華の尻に固定した。
この低い位置からの眺めなら、スクワットの動きを詳細に把握することができる。
「お、おい! そんなに見られると恥ずかしいって!!」
流華が叫ぶ。
しかし俺は聞く耳を持たない。
「さぁ、俺の方は準備万端だ。早く始めてくれ」
「うぅ……。わ、分かったよ……」
流華がゆっくりと足を広げる。
そして、静かにスクワットを披露していくのだった。
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