ハイブリッジ男爵家の当主であるタカシ。
その古参メイドである10代の少女レイン。
その2人が、王都騎士団の元見習い騎士にしてハイブリッジ男爵家の新メンバーであるナオミに、マッサージを施すという話になった。
(うぅ……。どうしてこんなことに……)
ナオミは困惑の声を上げる。
古参メイドのレインから奉仕を受けるというだけでも、畏れ多いことだ。
ましてや、当主からマッサージを受けるなど、本来はあり得ないことである。
「どうした? ナオミちゃん。気が進まないようなら、止めておこうか?」
「い、いえ、だいじょうぶです」
ナオミがそう返答する。
当主から申し出てもらっている以上、断るのもそれはそれで失礼だ。
ナオミとしては、受けざるを得ない。
「マッサージではオイルを用いる。装備が汚れてしまう可能性があるから、こちらのマッサージ用の服に着替えてくれ」
「は、はい」
タカシはナオミに、服を手渡す。
薄い生地で作られた簡素な服だ。
また、布面積も小さい。
まさに、オイルマッサージに適した服と言えるだろう。
「では、着替え終えたら隣の寝室に来てくれ。レイン、準備を進めていくぞ」
「はいっ!」
タカシとレインはそう言って、その場から立ち去った。
これから着替えるナオミに気を遣ったのだ。
(な、なんだか恥ずかしいなぁ……。でも、せっかく用意してくれたんだし、着ないわけにもいかないよね……?)
ナオミは、顔を赤面させながら装備を脱ぐ。
そして、先ほど渡された服を広げるが――
(こっ、これは……!?)
ナオミは思わず絶句した。
なぜならば、服の布面積が想像以上に小さかったからだ。
かろうじて、本当に大切な部分が隠れるレベルである。
(な、なんでこんなエッチな格好なのぉ~~~~ッ!!)
ナオミは心の中で絶叫する。
しかし、もうここまで来てしまったのだ。
今更後戻りはできない。
覚悟を決めるしかないだろう。
着替え終えたナオミはおぼつかない足取りで、隣の寝室に向かう。
そこでは、すでにタカシとレインが待機していた。
「あ、あの~……。き、着替えました」
「ほう……?」
タカシが感嘆の声を漏らした。
彼が『マッサージ術』を取得してから、さほどの月日は経過していない。
当然、彼がマッサージを施した人数は、まだわずかなものだ。
彼と親しいミリオンズの面々、あるいはレインやオリビアくらいなものである。
(しまった……。マッサージ用の服は、結構露出度が高いんだったな……)
タカシは後悔する。
これまでは”そういう仲”の者にしかマッサージをしてこなかったので、あまり深くは意識していなかったのである。
まだ配下に登用したばかりのナオミに渡すには、あまりにも薄く頼りない生地であった。
とはいえ、いまさら引き返すわけにはいかない。
変に動揺してしまうと、彼がナオミに対して下心を抱いていると思われてしまうだろう。
「それじゃあ、早速始めよう。まずはベッドに仰向けになって寝転んでくれるかな?」
「は、はい……」
「緊張する必要は無い。リラックスしてくれ」
「わ、わかりました……」
ナオミはおずおすとベッドに横たわる。
そんな彼女の身体に、レインがある物を差し出す。
「ナオミ様、こちらを……」
「これは?」
「ホットアイマスク、そして耳元で音を奏でる魔道具です。マッサージ中に触覚以外の五感をできるだけ塞いでおくことで、よりマッサージの効能を高めることができます」
「そ、そうなんですね……」
ナオミはおどおどとした様子で、それらを受け取る。
レインの言う通り、視覚や聴覚などを遮っておいた方が効果が高くなるのかもしれない。
奉仕を受ける側のナオミとしては、言われた通りにするしかない。
そして、彼女は視覚と聴覚を自ら遮った。
「ふふ……。これで準備は万端ですね」
「ああ。俺とレインで、ナオミちゃんを癒やすぞ」
「はい! がんばりましょう!」
タカシとレインが意気込む。
この会話は、もはやナオミには聞こえていない。
彼女の耳には、音を奏でる魔道具が装着されているからだ。
現代日本風に言えば、ヘッドホンと言ってもいい。
「まずはオイルを垂らすぞ」
タカシはそう言って、ナオミの胸元や腹、太ももなどにオイルを垂らしていく。
「ひゃっ!?」
「冷たいか? 大丈夫だ。すぐに気持ちよくなる」
「んんっ!」
会話が成立しているようにも見えるが、気のせいである。
ナオミの耳にタカシの言葉は届いていない。
だが、タカシとしても無言でマッサージをするのはなんとなく寂しいし、共にマッサージに取り組むレインとの意思疎通もある。
半ば独り言のように、ナオミに話しかけるのであった。
(うぅ……。なんか、ヌルヌルして変な感じ……。それに、オイルが垂れる度にゾクゾクする……)
オイルによって濡れていく感覚に、ナオミは戸惑うばかりだ。
一方のタカシも、困惑していた。
(マズいな……。これは予想以上に……)
これまでに彼が妻たちに対して行ってきたマッサージにおいては、特に下心を抱いていなかった。
あくまで疲れを癒やしてもらうための奉仕だ。
夜になればちゃんとした形でのお楽しみが待っているので、当然である。
しかしながら、ナオミとは現状でそういう関係にはなっていない。
そんな少女が薄く頼りない生地の服を着て、オイルまみれになっている光景を見て、彼の理性は揺れていた。
(理性をしっかり保つのだ……。俺ならばできる!)
ナオミへのマッサージに向けて、タカシは改めてそう決意したのだった。
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