「これがオーガの国か……。警備がずいぶんと手薄だな」
先日のガルハード杯で、俺は無事に優勝した。
メルビン師範やエドワード司祭が援助してくれたおかげだ。
生活費を気にせず、ずっと鍛錬に集中できた。
そして忘れてはならないのは、『ステータス操作』のチートだ。
はっきり言ってズルだが、俺は武闘関連のスキルを集中的に伸ばしまくった。
チートなしの武闘家を相手に、負ける要素など皆無だったと言っていい。
そして、大会が終わった直後、ゾルフ砦の南にあるオーガの国と戦争が勃発する。
小競り合いが続く中、俺はアイリスと2人だけで相手国に潜入した……というわけだ。
「油断しないでね、タカシ。戦争は……何が起こるかわからないから」
「ああ。わかってるよ」
俺はアイリスと手を繋ぎながら歩く。
彼女には加護を付与済みだ。
ガルハード杯には間に合わなかったものの、今や彼女の実力は俺に近いものがある。
実質的に、ガルハード杯の優勝者2人が敵国に潜入しているような状況だ。
魔法や剣の戦いは物音が大きくなりがちだが、武闘は必ずしもそうではない。
しかも、俺たちは『気配察知』や『気配隠匿』のスキルも強化している。
まさに潜入作戦にうってつけだった。
Bランク冒険者を始めとした援軍が来るという話もあったが……。
今の俺とアイリスなら、2人だけで十分。
ゾルフ砦上層部にそう直訴し、援軍を待たずに潜入作戦を決行した。
――その後も、俺とアイリスは順調にオーガの国を進んでいく。
途中で6人の強者集団と遭遇したが、聖闘気を使って蹴散らした。
無事に宮殿の最奥部に潜入し、そして……
「まさか、ここまで上手くいくなんてね……」
「そうだな……。アイリスがいなかったら、こうはいかなかっただろう」
俺とアイリスは、オーガの国王らしき男の亡骸を見下ろしつつ、そうつぶやく。
彼はそれなりに強かった。
しかし、聖闘気術を始めとした俺の持つチートを駆使すれば、もはや敵ではない。
膝を庇う様子があったし、古傷でも傷んでいた可能性はあるが……。
戦争において、敵方の事情をこちらが斟酌する義理はない。
「こっちの女は……ハーピィだな。オーガとハーピィは別種族と聞いていたが……」
「このあたりはハーピィとオーガの共同支配領域らしいよ。一部では混血も進んでいるみたい」
俺の問いに、アイリスが答える。
ハーピィは鳥のような羽付きの腕を持つ種族で、オーガは鬼のような角を持つ種族だ。
完全に別物の存在だと思っていたが、ハーピィとオーガの混血も進んでいるらしい。
「アイリスは博識だな……。俺なんか、武闘以外の知識は何もないぞ」
「ふふ……。タカシに褒めてもらえて嬉しいよ」
俺はアイリスの頭を優しく撫でてやる。
すると彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「しかしなぁ……。殺してしまったのは、少しやり過ぎだった気もする」
俺は2人の亡骸を見ながら言う。
男の方が国王で、女の方は王妃の可能性が高い。
ここは宮殿の最奥部だし、彼らの服装は少し豪華だからな。
彼らは『オーガ』や『ハーピィ』という存在である。
サザリアナ王国を始めとした諸国とは正式な国交がないため、どのような生態をしているのかは不明な点も多い。
意思疎通が可能かどうかも怪しいところだ。
俺との戦闘中も、目を黒く濁らせながらただ唸り声を上げるのみだった。
だが……。
時間をかけて言語を解析したり、あるいは特殊な魔道具でも使ったりすれば、コミュニケーションは可能だったかもしれない。
いくら戦争とはいえ、これで良かったのだろうか?
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