「ふう……。とても良かったぞ」
「……うん。初めてだったけど、ボクも凄く気持ちよかった……」
タカシと雪の距離は縮んだ。
どのような行為を通して縮めたのかは、彼らのみが知るところだ。
「……男爵さん、すごく上手だった……」
「ああ。俺も実は初挑戦だったのだが、何とかなって良かったよ。まぁ、似たようなことはいつもしているしな」
「……男爵さんの周りには、きれいな人ばかりだからね。ボクなんて……」
「そんなことはない。むしろ、雪こそモテるんじゃないか? こんなに可愛いのに、冒険者なんてやってるのが不思議なくらいだ」
「……ふふふ。ありがとう。でも、ボクはちゃんと自立したいと思っていて、そのために冒険者をしているんだよ。姉さんたちのついでみたいに言い寄ってくる人もいたけど、そういう人はボクの好みじゃない」
雪が断言する。
雪月花は優秀なCランクパーティだ。
自分が優秀な女性というのは、男性に対する要求水準も増すものだ。
彼女のお眼鏡に叶う男は、今まで現れなかった。
「……そうか」
タカシは内心焦る。
姉のついでのように言い寄ってくる男――。
つまりは自分のことではないか。
彼は花や月にもアプローチしているので、このようなことを言われて気が気でない。
「複数の女性に言い寄る男は嫌いか?」
「……前までのボクはそうだった。でも、今のボクは――」
雪はそこで一旦言葉を切った。
そして、大きく深呼吸してから続きを口にする。
「男爵さんが好きかな……」
「……ありがとう。嬉しいよ」
タカシは素直に感謝した。
今の言葉は嘘ではないと感じたからだ。
「雪は俺に何を求める? 妻の立場か? 妾でもいいのか? あるいは――」
「ふふっ。いきなりそれ? 普通に考えて、最低の言葉だよ……」
「うっ! す、すまん……」
タカシが謝罪する。
それはそうだ。
女性と仲を深めた直後にこのような話を切り出すとは、失礼極まりない。
「……でも、男爵さんならなぜか許せるかな。大丈夫。ボクは多くを望まないよ……」
「ふむ」
「……花姉ぇと月姉ぇも男爵さんのことは気に入っているからね。気持ちの方向性はボクとは少し違うと思うけど。あんまり三姉妹で争いたくはないかな……」
同じ男を好きになった三姉妹。
普通に考えて、泥沼の戦いになるだろう。
なぜなら、男側が提供できるリソースには限りがあるからだ。
ここで言うリソースとは、概ね金銭と時間のことと言って差し支えない。
逆に言えば、妻や子どもをしっかりと養えるだけの金銭があり、妻や子どもに構うだけの時間があれば、男が複数の女性を娶っても大きな問題はない。
雪にとって幸いなことに、タカシは十分な資産を持っている。
Bランク冒険者にして男爵でもある彼は、そこらの一般人とは比べ物にならないほどの収入があるのだ。
しかも、チートによってそれはさらに向上する余地がある。
少なくとも、金銭面で問題が発生する可能性は少ない。
懸念があるとすれば時間だ。
いくらタカシでも、分身の術は使えない。
だがそれでも、金に物を言わせて身の回りの世話を使用人に任せて時短すれば、一般人よりも時間を有効活用できる余地はある。
チートによって身体能力が高くなっている彼は疲れ知らずであり、睡眠の質も高い。
いずれ限界は訪れるだろうが、単純な金持ちに比べればより多くの妻や愛人を囲う能力を持っている。
「三姉妹仲良くしたい感じか」
「……うん。だから、今日の出来事はしばらく秘密にしておいて。花姉ぇはともかく、月姉ぇは焦りそうだから……」
「ふむ。確かにそうかもしれないな」
タカシと花は、深い仲になる一歩手前まで進んだことがある。
今回の件で少し距離を詰めたことだし、近いうちに改めてそういう関係に進展することもあるだろう。
だが、月はまだまだだ。
ほっぺたにキスをした程度である。
花と雪の進展具合を聞いてしまえば、焦った月が変な方向に暴走する可能性は十分にあった。
「わかった。雪が言うならそうしよう」
「……ふふ。男爵さんも、実は楽しみなんじゃない……?」
「何がだ?」
「……自分で言うのもなんだけど、ボクたちは美人三姉妹として冒険者界隈では有名なんだよ……?」
「ああ、もちろん知っているとも。確かに、美人三姉妹がいずれ俺と深い仲になってくれる可能性があると考えたら、楽しみな気持ちもある」
「……ふふ。正直だね。でも、それだけじゃない。三姉妹を同じ日に同じベッドに寝かせることもできるかもしれないよ……?」
「――っ! そ、それは……!」
タカシの顔色が変わった。
雪の言いたいことはわかる。
美人三姉妹を同時に抱く機会など、普通に生きていればそうあることではない。
「……まぁ、先のことだけどね。花姉ぇはともかく、月姉ぇは嫌がりそうだし……」
「あ、ああ。そうだな、まだ先の話だな……」
タカシは何とか自分を落ち着かせる。
そうして、場の雰囲気が少し落ち着いたときだった。
「ぎゃああああぁっ!」
少し離れたところから、男の悲鳴が聞こえてきたのだった。
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