「な、なぁ……。もしかして、侍の奴らが……」
「しっ!」
俺は流華を黙らせる。
そして、じっと気配を探った。
俺の研ぎ澄まされた感覚が、その気配をとらえる。
「……」
「あ、ああ……。やっぱり、オレは目を付けられているのか……?」
流華が不安そうな声を出す。
彼はすでに罪を償った。
侍連中にリンチを受けた上、右手首まで失ったのだ。
もう十分だろう。
だが、それでも彼が完全に無罪放免になったとは限らない。
侍や町民たちの中には、流華に悪感情を持っている者も少なくないはずだ。
「安心しろ」
「え?」
「俺がお前を守る。今度こそ、奴らに引き渡したりはしない」
「でも……」
「絶対だ。俺を信じろ」
俺は流華の頭を撫でる。
すると、彼は気持ち良さそうに目を細めた。
……よし、行こう。
俺は覚悟を決めて、部屋の扉を開ける。
するとそこには、やはりと言うべきか侍の姿があった。
先日の侍集団のリーダー格だった男だな。
「何用だ?」
俺は侍に問う。
すると彼は、静かに答えた。
「そこのガキを引き渡してもらおう」
「なに?」
「そやつはスリの常習犯だ。貴殿も知っているだろう?」
「ああ、知っている」
俺はうなずく。
だが、流華は俺たちと行動を共にする仲間だ。
引き渡すわけにはいかない。
「彼はもう罪を償った。切断された右手首は痛々しいほどだ。もう干渉しないでもらいたい」
「ほう。貴殿はそやつの肩を持つのか?」
侍が俺に鋭い視線を向ける。
彼は流華を指差しながら言った。
「確かに、そやつには罰を与えた。だが、まだ償いきれておらん。そやつは罪人だ」
「彼はすでに罪を贖っている。これ以上の罰は不要だ」
俺は流華を抱き寄せる。
流華は不安げな顔をしていた。
そんな俺たちに、侍が言う。
「罪人をかばい立てするというのか?」
「これ以上の罰は不要だと言っているんだ。それとも何か? お前たちに、彼を罰する権限があるとでも言うのか?」
俺は語気を強めて言う。
侍の懸念も理解はできる。
右手首を失ったとはいえ、流華はスリの常習犯だった少年だ。
再犯を警戒するのは当然である。
窃盗罪を含めた一部の犯罪は、再犯率が高いとされている。
それには様々な要因が関係しているだろうが、その一つに『犯罪行為への心理的ハードルが下がる』というものがある。
つまり、一度でも犯罪に関わってしまうと、その後も同じような行為をしやすくなる傾向があるのだ。
名言風に言えば、『一度盗んだら”盗む”って選択肢が俺の生活に入り込むと思うんだ』といったところか。
ともかく、侍の懸念にも一定程度の合理性はある。
だが、それはそれとして、流華が罪を償ったことも事実。
法的根拠のない追加の罰を、俺は認めるつもりはない。
「権限か」
「ああ、そうだ。お前には、追加の刑罰を執行する権限があるのか?」
「ある」
「……なに?」
俺は眉をひそめる。
ちょっと想定外だった。
そんな俺を見据えて、侍は言葉を続ける。
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