道の両脇には青々とした田が広がり、張られた水面に空の色が映っていた。
空はどんよりと曇り、湿った風が草を揺らす。
梅雨の最中らしく、遠くの山並みは霞み、地面には雨を含んだ匂いが漂っていた。
俺は那由他藩の中心となっている寺を後にし、桜花藩への帰途についている。
「さて、次はどうするか……。自由に行動するには、人質が邪魔だな……」
俺はぽつりと呟いた。
俺の後ろでは、5人の子供たちが並んで歩いている。
那由他藩の要人たちの近親者――まだ幼い子供ばかりだ。
最年長でも10歳に届かず、皆、不安げに互いの服を握りしめながら歩いていた。
「一度は桜花藩に帰らざるを得ないか……」
今回の戦での収穫。
那由他藩の上位戦力をまとめて相手にしても、俺一人でどうにかなる。
この事実を知れたのは大きい。
だが、それだけではもちろん足りない。
俺が那由他藩に侵攻したのは、支配するためだ。
継続的な支配を確立できなければ、せっかくの勝利も無意味になる。
一般的に言って、新たに得た領土を完全に掌握するには、大きく3つの方法がある。
軍事的な支配。
経済的な支配。
そして、政治的な支配だ。
どれを選ぶにせよ、一筋縄ではいかない。
実際に、俺たちのケースに当てはめて考えてみよう。
(まず、軍事的に支配を確立するには……)
俺が那由他藩に常駐すれば、シンプルだ。
反抗勢力をいつでも無力化できるため、支配は間違いなく安定する。
だが、それでは他の藩を攻める計画に支障が出る。
没だ。
ならば、紅葉、流華、桔梗、早雲、無月……あるいは桜花七侍や幽蓮に任せるか?
……それもダメだ。
単純に戦力不足である。
俺が一人で制圧できたとはいえ、那由他藩の総合的な戦力は決して低くない。
そんな那由他藩を軍事的に支配し続けるには、ほぼ全戦力を投入するか、景春を核とした編成を組む必要がある。
それは、さすがに大事になり過ぎる。
他の面で様々な不都合が出てくるだろう。
(ならば、経済的な支配は……)
那由他藩の食料生産業や主要産業を接収し、こちらで管理する。
これは武力に頼る割合を減らせる方法だ。
支配を維持するための兵の負担を減らせるし、経済的に締め上げれば、那由他藩は反抗どころではなくなる。
桜花藩にも、文官寄りの侍はいる。
まだ全員の名前を把握しているわけではないが、そいつらに統治を任せれば、いずれは那由他藩を経済的な面から掌握することも可能だろう。
だが――ダメだ。
この方法には時間がかかり過ぎる。
将来的な安定感を求めて、他の案と並行して進めるのはアリだ。
しかし、経済的な手段だけで進めるのは悠長すぎる。
今すぐ支配を確立しなければ敵が息を吹き返してしまう可能性があるし、ミッションの達成も遅れる。
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