「甘すぎるのも考えものだぞ。反逆者を無罪放免にすれば、藩の統治が乱れる」
「それはそうだけど……。でも、何も殺さなくたって……。ほら、無期限の謹慎処分にするとか……」
「……ん? あー、そうか」
俺は、景春との認識の齟齬に気づく。
そう言えば、このあたりの説明はしていなかったな。
「景春、それは誤解だ。俺は確かに、幽蓮を生首にして晒した。だが、殺したわけじゃない」
「はぁ? 訳が分からないんだけど……」
「そうだな……。百聞は一見にしかずとも言う。ちょうどいい、あそこを見ろ」
俺は部屋の一角を指差す。
その方向には……
「ひ、ひぃいいいいいっ!? ま、また生首ぃいいいっ!?」
幽蓮の首があった。
戦犯審議会のときと同じような机の上……。
白目を剥き、舌をだらんと出した幽蓮が……。
「ふふ、高志殿も悪趣味ですね」
「何度見ても、不気味な首です」
「迫力があるよな!」
「……ちょっと気持ち悪い……」
樹影、紅葉、流華、桔梗が各々の感想を口にする。
生首を見た割には景春ほどビビっていない。
彼女たちの精神力は景春よりも強いのだろうか?
いいや、別に彼女たちの精神力が極端に強いわけではない。
彼女たちはただ、知っているだけだ。
「ちょっ……高志! 早くどっかにやってよ! 怖いじゃない!!」
「まぁ待て。幽蓮は死んでいない」
「え? でも、生首だけになって……」
景春は生首と俺を交互に見ている。
そして、ようやく気付いた。
「……何あれ? 机の下に鏡……? それに、よく見れば妙な妖気が……」
「御名答。生首に見えているが、実際には体もちゃんと繋がっているのさ」
現代日本で言うところの、マジックショーあるいはトリックアートみたいな仕掛けだ。
机の下に鏡を斜め向きに配置して周囲の景色を反射し、背景と同化するアレである。
鏡の精度がぼちぼち程度であったこと、戦犯審議会中につきハプニングが生じる可能性があることを考慮し、俺の影魔法によっていい感じに錯視を補強している。
それでもちゃんと見れば仕掛けに気付いていたかもしれないが、あのときの景春は通常の精神状態ではなかったからな。
細工に気付けないのも無理はない。
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