龍神ベテルギウスとの戦いが続いている。
多彩な魔法を繰り出す俺に対し、ベテルギウスは『ドラグネス・オーラ』を発動してきた。
その別名は『龍闘気』――つまりは俺も普段から使っている『闘気』の亜種なのだが、その効果は大きい。
火、風、水、雷、土といった基本五属性の魔法に対する耐性を持っている。
また、物理攻撃に対しての強度も高い上、自らの攻撃にも上乗せできるのだ。
まさに攻防一体の奥義といったところか。
「くはは! どうした? 顔色が悪いぞ?」
ベテルギウスが余裕の表情で言う。
実際、俺はかなり追い込まれつつあった。
というのも、ベテルギウスの『ドラグネス・オーラ』を突破できる攻撃魔法が思いつかなかったからだ。
(純粋な闘気の押し合いでは勝てない。火魔法は火闘気で対抗される。五属性の複合魔法も、龍闘気ならばまとめて耐性がある……。となると……)
俺は結論を出す。
ステータス操作のチートにより、俺には幅広い選択肢が与えられている。
だが、その中でもベテルギウスの龍闘気を破る可能性がある戦闘手段は限られていた。
「ふっ……。こいつの出番が来るとな」
俺はアイテムボックスから『紅剣アヴァロン』を取り出した。
「なんだ、それは?」
「見ての通り、剣だよ」
「そんなことは見ればわかる。なぜ、そんな物を取り出す必要があるのかと聞いている。魔法を増強する効果でも持っているというのか?」
「確かに、その効果もある。だが、これはあくまで剣さ。お前を倒すためのな」
「おい。ふざけているのか?」
「いや、大真面目だ」
俺は剣を構える。
そして、意識を集中させていく。
「お前の本業は魔法使いのはず……。苦し紛れの剣士ごっこなど――むっ!?」
ベテルギウスの言葉が途中で止まる。
そして、彼の目が大きく見開かれた。
「ほう……。なるほど、なかなかに隙のない構えだ。まだまだ荒削りのようではあるが……」
「仕方ないだろ。俺は基本的に我流で鍛えていてな。武闘の師匠はいるし、魔法は仲間と互いに教え合っているが……。剣技は大部分が我流のままだ」
ステータス操作のチートによってスキルを取得できるので、教えてもらう必要性が低いという事情もある。
だが、完全な我流ではやがて限界がくる。
スキルのレベルを上げるというのは、格闘ゲームで言えばキャラの基本ステータスを上げ、大技の発動コマンドを易化させるようなものだからな。
それだけでも大助かりなわけだが、さらなる上を目指すのであれば操作者自身の上達は必須である。
理想を言えば剣術も師匠が欲しかった。
強いて言えば、ゾルフ砦のビスカチオが師匠か。
だが、あれは1か月未満の短い期間だった。
そのため、俺の剣術はやはり我流の域を出ていない。
「ふむ……。我流でその域に辿り着くか。面白い。お前のような逸材は久方ぶりだ」
ベテルギウスが興味深そうな視線を向ける。
そして同時に、残念そうに首を振った。
「だが、惜しいな。先ほど言った通り、召喚時の魔力が残り少ない。貴様との攻防もこれが最後になるだろう」
「それなら、お前が異世界に心置きなく帰れるよう、完璧にぶっ倒してやるよ」
「くっくっく……! 楽しませてもらおうか!!」
ベテルギウスがニヤリと笑う。
俺は紅剣アヴァロンを空に掲げた。
「渇け……【アヴァロン】」
俺が詠唱すると、紅剣から凄まじい炎が巻き起こった。
炎は渦を巻きながら天へと昇っていく。
まるで炎の竜巻だ。
それと同時に、周囲の空間が歪み始めた。
「これは……!?」
ベテルギウスが驚きの声をあげる。
無理もない。
俺も最初は驚いたからな。
「ここら一帯は俺の領域になった。お前がこの領域にいる限り、俺の魔法から逃げられない」
「領域だと……!?」
「あぁ、そうだ。今からお前を滅する場所――それが『アヴァロン』だ!!」
俺は叫ぶ。
その直後、炎の勢いが一気に増した。
上空で渦巻く炎の竜巻が、急降下してくる。
そして、そのままベテルギウスを飲み込んだ。
「ぐおぉぉぉっ!?」
ベテルギウスが悲鳴をあげ、体勢を崩す。
そして、苦悶の表情を浮かべながらも笑みを見せた。
「はははははははは!! 素晴らしいぞ!! これがお前の奥の手か!!」
ベテルギウスが愉快そうに笑う。
「まさか、これほどのものとはな!! ならば我も、今出せる最高の技で応えようではないか!!!」
ベテルギウスが両手を広げる。
次の瞬間、ベテルギウスの全身が眩く輝き出した。
「我が奥義――【ドラゴニック・ノヴァ】!!」
ベテルギウスの身体から放たれたのは、膨大な量の闘気。
それは彼を中心に巨大な球体となって、彼ごと俺の方へ迫ってきた。
「受けきれるかな?」
ベテルギウスが不敵に笑う。
俺はそれに答えるように、ニヤリと笑った。
「当然だ。俺の剣技を見せてやる」
俺は両手で紅剣アヴァロンを強く握る。
そして――
「燃え爆ぜろ。【フレアドライブ】!」
剣を握ったまま、俺は足元に火魔法を発動させる。
その勢いを利用し、ベテルギウスへ爆速で突進していく。
「なにっ!? 我が奥義を正面から迎え撃つつもりか!!」
「その通りだ!! 斬魔一刀流奥義……【飛龍・火焔】!!!」
俺の放った渾身の一撃が、ベテルギウスの『ドラゴニック・ノヴァ』とぶつかり合う。
そして――
「馬鹿なぁあああっ!!」
ベテルギウスの断末魔と共に、『ドラゴニック・ノヴァ』は爆発四散したのだった。
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