ドッゴーン!
そんな爆発音とともに、ミリオンズ一行の足元が爆ぜた。
「くっ……」
「きゃっ!?」
爆風で吹き飛ばされるダメージを負うミティやアイリスたち。
そんな彼女たちに対して……カゲロウが言う。
「やはりとんでもない強者たちだね。呪符を用いた最高火力に耐え抜くとは。……だが、これで終わりだ」
カゲロウはミティたちに手を向ける。
それと同時に、地面に魔法陣のようなものが現れた。
「君たちのような強者を正攻法で無力化することは難しい。巫女様には申し訳ないが、完全な無力化は諦めるしかないね」
カゲロウが言う。
ほどなくして、地面に出現した魔法陣が光り輝き始めた。
「ぐっ……! こ、これは……?」
「ミティ様! これはマズイかもしれません……! 転移魔法系の波長です!!」
レインが叫ぶ。
ミリオンズ一行は、この場から離脱しようとした。
だがしかし、先ほどの爆発ダメージが小さくないようだ。
それに、『長い船旅』『鏡像カウンターアバターズとの互角の戦い』『大量の式神との戦い』と、連戦に次ぐ連戦で消耗しているらしい。
致死性のダメージを負っている者はいないようだが、疲労や蓄積ダメージは大きかった。
思うように動けないのも無理はないだろう。
「レジスト……しきれませんわ……!!」
「これほどの出力……! いったいどれほどの呪符を用いているでござる……!!」
「これで里の安全を買えるのなら、安いものさ。ふふ……。では、さらばだ」
カゲロウが笑みを浮かべる。
そして――
シュンッ!
ミリオンズ一行はその場から姿を消した。
ミティたちが『霧隠れの里』から消えた後も、カゲロウたちは警戒態勢を継続する。
しばらくして無事に転移魔法が発動したことを確信してから、ようやく緊張を解いた。
「…………くっ! はぁ、はぁ……」
「カゲロウ様! 大丈夫ですか!?」
カゲロウが膝をつく。
すると、部下たちが駆け寄ってきた。
「問題ないよ。……と言いたいところだけど、さすがに肝が冷えたね。何なんだ、あの超人集団は? 里の戦力を総動員した上、呪符の備蓄を使い切ることになるとは……。土地も散々たる状態だ」
カゲロウが周囲を見渡す。
そこには、これまでの戦闘により変形した土地があった。
それに、式神使いや陰陽師たちも著しく消耗している。
「しかし……、あの超人的な強さの集団を強制転移させられたのは僥倖だな。不幸中の幸いと言えよう」
「ええ。確かに……。これで、あの集団は戻ってこれないでしょうね」
部下の言葉にカゲロウがうなずく。
カゲロウは『霧隠れの里』を束ねる者だ。
里の者たちは、彼女の手足となって働く。
そんな部下の一人が言う。
「しかし……カゲロウ様? 討伐や捕縛でなくてもよろしかったのでしょうか?」
「よろしくはない。巫女様にも文句を言われるだろうね」
「ならばどうして……」
「仕方ないじゃないか。あんなのと正面からぶつかったら、間違いなく里は壊滅する。かと言って、見逃すわけにもいかない」
「そ、それは確かに……」
カゲロウは、里の中ではトップだ。
しかし、里の外にはより上の立場の者が存在する。
その者たちの意向に正面から逆らうようなことはできない。
かといって里を危機に晒すわけにもいかない。
バランス感覚が要求される地位である。
「あの者たちの転移先が、岩の中や魔物の巣であれば安心なのですが……」
「それはないだろうね。転移術には制約がある。転移先が危険な場所なら……それを本能レベルで察知して、より強いレジストがあったはずだ」
「そうでした。申し訳ありません」
部下が謝罪する。
転移系の魔法には制約がある。
移動先を危険な場所に設定することによる『擬似的な即死魔法』のような使い方はできない。
「まぁでも……似たようなものかな? 異国の地で、バラバラに行動するわけだからさ。個人レベルでも脅威だが、彼女たちの真の恐ろしさはその連携力になる。別行動をとらせれば、あとは各藩での対処も可能だろう」
「だと良いのですが……」
「細かいことは考えないようにしよう。とにかく、これで『霧隠れの里』の役目はとりあえず終わった。呪符を大量に消耗したし、これからは節制が必要になるぞ。なんとか立て直していかないとね」
カゲロウが苦笑する。
彼女は里のまとめ役として今後の仕事に思いを馳せつつ、侵入者のことを頭の片隅に追いやったのだった。
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