ミティのスキルポイントの使い道は何がよさそうか。
検討の手順は俺と同じでいいだろう。
武闘会では役に立たないが、防衛戦では有用そうなスキル。
武闘会で役に立ち、防衛戦でも有用そうなスキル。
この2つは分けて考える。
前者のスキルとしては、槌術、投擲術、風魔法あたりか。
槌術と投擲術は現状のミティのメインスキルだ。
魔物狩りで大活躍している。
風魔法は、現在練習中だ。
ラーグの街からこのゾルフ砦までの道中でも、コツコツ練習していた。
近接物理のハンマー、遠距離物理の投擲に加え、風魔法も扱えるようになれば、戦闘に幅が出る。
後者のスキルとしては、体力強化、腕力強化、器用強化、闘気術あたりか。
体力強化レベル1を2に上げるには、5ポイント。
腕力強化レベル3を4に上げるには、15ポイント。
器用強化レベル2を3に上げるには、10ポイント。
闘気術レベル3を4に上げるには、15ポイント。
今はスキルポイントが25もある。
多少は温存しておくとしても、最大15ポイントぐらいまでは使ってしまってもいいだろう。
ここで考えておくべきは、明日の対戦相手との相性だ。
ミティの明日の対戦相手はわかっている。
ジルガだ。
ジルガは筋肉ムキムキの、正統派な感じの武闘家だ。
太い腕からの強烈なパンチの他、俊敏性や耐久力も優れており、バランスがいい。
先月の小規模大会では決勝でギルバートといい勝負をしていた。
今日のガルハード杯では、アイリスにも勝っている。
かなりの強敵だ。
ミティからすれば格上と言って間違いないだろう。
そう考えると、体力強化や器用強化は微妙かな。
ミティとジルガの実力差からして、長期戦になることは考えにくい。
体力強化はあまり意味がない。
また、器用強化のレベルを上げて、攻撃精度を多少上げたところで、通用するかと言われると怪しい。
ここは長所を伸ばす方向で、腕力強化か闘気術を上げるのが良さそうだ。
闘気術レベル4は俺と同じ理由で却下するとして、腕力強化をレベル4に上げるのが良さそうか。
これで、スキルポイント25のうち15を使い、10余ることになる。
10は防衛戦に向けて保留にしておく方針がいいだろう。
そうだ。
そろそろ、ミティに加護の件について話したほうがいいかもしれない。
明日も試合だし、微妙なタイミングか?
しかし、防衛戦が始まってしまうと、話すタイミングがさらに難しくなる。
防衛戦中のスキル強化の意思疎通をスムーズに行うためにも、今のうちに話しておいたほうがいい。
話そう話そうと思って、ずるずると伸ばしてしまった。
「ミティ。大事な話がある。少しいいか?」
さあ。
秘密を話すぞ。
「はい。なんでしょうか?」
ミティは俺の顔を見て、少し緊張した面持ちになる。
俺の緊張が移ったか。
「ミティの戦闘能力は、すごい勢いで成長しているよね。そのことについて何か感じることはある?」
「そのことですか……。私も不思議に思っていました」
「不思議に思っていたんだ?」
「そうですね。力は有り余っていますし、ハンマーや投擲の技術も自然とわかる感じです。もしかして、タカシ様と何か関係があるのでしょうか?」
鋭い。
普通、そんな発想になるか?
俺なら、自分に隠れた才能があったとか自惚れるけどな。
「実はそうなんだ。俺には、人が成長する方向性を示して促す力があるみたいだ」
レベルとかスキルポイントという単語は伝わらないだろう。
うまく噛み砕いて伝えていかないとな。
「え? ほんとうですか? ……それってものすごいことではないですか?」
「そうなんだよ。他言無用で頼む。このことはミティしか知らない。今まで黙っていてゴメンね」
「わかりました。ことがことですし、仕方がないと思います」
ミティは俺の話を信じてくれたようだ。
「ありがとう」
「それにしても、その力を使えば、建国……とまではいかなくても、領主などになることも可能では?」
ミティが思案顔でそう言う。
「そううまくもいかないんだ。この力は、俺とかなり親密な人にしか使えないみたいだ。今のところミティだけだよ」
「……!!! なるほど、そうですか。ふふふ、私だけ……」
ミティの顔がにやけている。
にやけ顔も可愛い。
天使だ。
「ミティの言う通り、この力を使えば、いろいろと便利だ。単純に俺の利益につながるだけではなく、力を得た本人の利益にもなる」
「そうですね。私も、この得た力には助かっています」
「さらに言えば、俺や本人に加えて、その人の属する集団の利益にも繋がっていくだろう。例えば、ミティが強くなったことにより、ラーグの街やゾルフ砦周辺の魔物の数は若干減ったはずだ。街の人たちからすれば魔物の驚異が若干減ったことになる」
この辺の話はきれいごとだが。
同業の冒険者は、ライバルが増えて困っている可能性もあるし。
「まあ全体からすれば微々たる変化だろうが。しかしそれも、複数人の力になれば大きくなっていくだろう。俺のためにも、力を与えられる人のためにも、街の人たちのためにも、この力を広めていきたいと思っている」
なんか胡散臭い宗教の演説みたいになってきた。
こんな説明でだいじょうぶか?
「そうですね。すばらしいことだと思います。他の人にもその御力を使っていきましょう」
「ああ。だがそのためには、その人と親しくなる必要がある」
「親しく……。ちなみに、私にその御力を使えるようになったのは、どのタイミングでしょうか?」
「初日の夜にいっしょに弁当を食べて、いろいろと話した後ぐらいだったよ」
「なるほど……。そのレベルの親密度だと、なかなか他の人には難しいかもしれませんね。あのときの私は、タカシ様に対してかなり大きな感情をいだきました。感謝・依存・崇拝・愛情など……。自分で言うのは少し照れますが」
うれしいことを言ってくれる。
「ありがとう。俺もミティのことは大好きだよ」
「……ありがとうございます。大好きです。タカシ様」
お互いに見つめ合う。
天使だ。
もうミティと2人で暮らしていけばいいんじゃないかな。
うん。
2人で末永く幸せに暮らしていこう。
…………。
いや、そういうわけにもいかないか。
ミッションによると、30年後に世界が滅亡するらしいからな。
やれることはやっておかないと。
「他の人に力を使うために、親密になっていく件だけど。ミティはそれでもいいの? 相手が女性なら、浮気みたいになっちゃうけど」
「わがままを言わせていただくと、私を1番に愛していただきたいとは思っています。ただ、わがままを言い過ぎて、タカシ様に捨てられてしまうのがこわいのです」
「ミティを捨てたりなんかしないよ!」
天使のミティと別れるなんて、とんでもない。
「もちろん、そう信じています。ただ、タカシ様は世界に名を残される英雄になるでしょう。もともとそう思っていましたが、今のお話をお聞きして確信に変わりました。英雄の妻が私1人で務まると考えるほど、自惚れてはいません」
「そうか」
「正直、女性の仲間が増えていくことは不安です。女性が増えても、今まで通りに愛してもらえますか?」
「もちろんだよ! ミティとはずっといっしょだ!」
「ずっと、ずーっと、いっしょにいましょうね」
ミティとしばらく見つめ合う。
天使だ。
…………。
おっと。
本題を忘れるところだった。
「話を戻そう。ラーグの街で食事会をしたときのメンバーは覚えてる?」
「ユナさんや、リーゼさんたちですね」
「その2人とは、特に親密になれてきているね。他にも、モニカ、ドレッドさん、アドルフの兄貴たちも、いい感じだよ」
「では、あのままラーグの街にいたほうがよかったのでは?」
「それは他にも事情があってね。ゾルフ砦に用事があったんだ」
用事とはミッションの防衛戦のことだ。
ミッションのことはまだ伏せておくか。
「それに、親密になれてきているとはいっても、まだまだ時間はかかりそうだったよ」
「まあそれもそうですか。あのときに私がいだいていた感情と同程度となると、短期間では難しいでしょうね」
「食事会の人以外にも、何人か候補はいるよ。ニムとか」
「ニム? どなたでしょう?」
「ああ、ミティは名前を知らなかったか。あのリンゴを売っていた犬獣人の子どもだよ」
「あの子ですか。あの子は経済的に困窮していそうでした。私たちにお金の余裕ができれば、支援してあげるのもいいかもしれません」
「そうだね。そのためにはもっと稼がないと。がんばっていこう」
「がんばります!」
ミティがぐっと握り拳をつくり、意気込む。
「あとは……。このゾルフ砦に来てからだと、あんまりいないな。アイリスとギルバートさんぐらいかな。メルビン師範とビスカチオ師匠もちょっとだけ」
「アイリスさんはいいかもしれません。冒険者として行動をともにしているときに、タカシ様のことをほめてましたよ」
「そうだったの? 照れるなあ」
脈アリか?
「今日の試合でタカシ様が負けてしまわれたのは、少しマイナスかもしれません」
「だよね」
現実は甘くない。
もっとがんばらないと。
「明日の試合で挽回しましょう。アイリスさん本人と当たる可能性もありますし」
「本人と闘って勝ったりしたら、好感度が下がらないかな」
「わかりません。アイリスさんは、むしろ好感度があがりそうなタイプのように見えます」
「そうかな?」
「自分より弱い男性よりは、強い男性のほうがいいと思うのは、自然なことでしょうし」
「それはそうかもしれないな。明日の試合でアイリスと当たれば、がんばって勝つよ」
「応援しています!」
ミティの激励を受ける。
明日の試合は全力を出し切ろう。
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