雪が食あたりで苦しんでいる。
ヤナギたち一行は、腹のものを垂れ流すために一時的に野営地を離れている。
月と花は、テントの中で熟睡中。
ここはタカシがなんとかしてやる必要があるだろう。
「雪、苦しいのか? 俺は何をすればいい?」
タカシは、腕の中に抱いている雪の背中をさすりつつ尋ねた。
「……男爵さんの治療魔法で治してくれれば……」
「治療魔法か……。わかった。とりあえず、試してみよう」
タカシは何か思うところがあったようだが、言葉を飲み込んだ。
そして、雪に向けて手を伸ばす。
「【ヒール】」
タカシの手から優しい光があふれ出す。
初級治療魔法の『ヒール』。
小さめの外傷や、体調不良などを癒やす効果がある。
腹痛にも一定の効果はあるだろう。
「これでどうだ? 少しは楽になったか?」
「……ありがと。ちょっと楽に――うっ!?」
ギュルギュルギュルウウッッ!!
「ううっ!?」
雪が悲鳴を上げる。
腹の中から、先ほどまでよりもさらに大きな音が鳴り始めたのだ。
「……ど、どうして? 男爵さんの治療魔法は一級品のはずじゃ……」
「やはりこうなったか。治療魔法は体の不調を治す。だが、すでに体内にあるものを排出する機能はないんだ」
ひと口に腹痛や食あたりと言っても、その要因は様々である。
だが、消化不良により下痢が生じるという点は共通していることが多い。
タカシの治療魔法により、雪の体調不良自体は快復に向かっている。
だが、すでに体の中に存在しているものを魔法によって直接的に排出させることはできていない。
「そ、そんなぁ……。ううっ……!」
雪の顔色が悪くなる。
彼女の体内で、下痢が暴れまわっているのだ。
「くっ……。まずいな。この様子だと、あと数分ももたないんじゃないか?」
タカシは顔をしかめた。
「そこらの茂みで出してくるか? この場の警護は俺に任せてくれればいい」
テントの中で月と花が熟睡している。
Cランク冒険者とはいえ、寝込みをゴブリンなどに襲われるとマズい。
ヤナギたちもいない今、タカシと雪が連れ立って離れるわけにはいかない。
「……ダメ。もう一歩も動けそうにない……」
ギュルギュルギュルウウゥッッ!!!
雪の腹からは、轟音が鳴り響いている。
「これはマズいな……」
今のタカシは、雪を抱きかかえている状態だ。
この状態で漏らせば、タカシにもそれは降りかかる。
「……ごめん。こんなことに巻き込んでしまって。ボクのことは放っておいて、男爵さんは逃げて……」
「バカを言うな! 女性を見捨てて逃げるような真似ができるわけないだろう!!」
タカシは叫んだ。
彼は正義感の強い男なのだ。
見ず知らずの女性であっても、困っているなら助けようとする。
それがたとえ、自分にとって不利益になるとしてもだ。
ましてや、雪はハイブリッジ男爵家の御用達冒険者である。
タカシとの付き合いもそれなりに長い。
その上、美少女だ。
彼女を見捨てるなど、彼にできることではなかった。
「でも、このままじゃ……!」
「わかっている。なんとかしなければ……。そうだ!」
タカシは思いついたことがあったようだ。
「雪、失礼するぞ」
「えっ!? ちょっ!?」
雪の返事を待たずに、タカシは行動を開始する。
腕の中にいる雪を抱きかかえる姿勢を少し変えたのだ。
「ううっ。この姿勢だと、すぐにでも漏れちゃう……」
雪が弱音を口にする。
今の彼女の姿勢は、幼い女児が排尿する際に親にしてもらう体勢である。
背中をタカシに預け、膝裏あたりを手で支えられている。
「もう少しだけ辛抱しろ。――そりゃぁっ!!」
タカシは掛け声とともに、雪のズボンとショーツを一気に取り去った。
「きゃああっ!? なにするのっ!?」
雪が叫ぶ。
だが、タカシの行動は止まらない。
「いいからジッとしていろ。ほら、これでいつ漏らしても大丈夫だろ?」
「そ、そういう問題じゃないよぉ……」
雪は下半身裸の状態になっている。
確かにこれなら、漏らしても服を汚すことはない。
だが、羞恥心は別だ。
彼の腕の中で、彼女は顔を真っ赤にしている。
「ほら、苦しみから早く解放されたいだろう? 出して楽になれ」
「……うう、でも……」
「それに、早く出した方がいい事情は他にもある」
「え?」
「ヤナギたちがいつ帰ってくるか分からないんだ。奴らも苦しんでいる様子ではあったが、出せばすぐに快復するパターンもあるからな」
腹痛には、大きく2つのタイプがある。
1つは、出したらすぐにスッキリして快復するタイプ。
もう1つは、出してもしばらく苦しみが続くタイプだ。
雪には治療魔法が施されている。
体調自体は快復しているはずなので、出せばスッキリするだろう。
だが、治療魔法を施されていないヤナギたちがどちらのタイプなのかは、読めないところがあった。
「そ、そんなぁ……。あんな男たちに見られるのは嫌だ……。でも……」
「月と花が起きてくる可能性もあるぞ。仲の良い姉妹とはいえ、こんな恥ずかしい姿を見られるのはイヤだろ?」
「ううう……」
雪は涙目になっている。
タカシの言うことはもっともだ。
だが、タカシという男の前で漏らすのも、それはそれでかなり恥ずかしい。
彼女は究極の選択を迫られていたのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!