風がミティの髪を優しく撫でる。
その風の中にも、戦いの名残がかすかに渦巻いていた。
目に見えない熱――魔力と妖力の入り混じった気配が、まだこの場に留まっている。
「ふぅ……。今の私なら、火魔法――いえ、火妖術の真似事ぐらいはできるわけですか」
小さく息を吐きながら、ミティは手を見つめた。
手のひらの表面には、火傷ともつかない淡い痕が残っている。
それは、彼女の中で何かが変質し始めている証。
痛みは不思議とない。
ただ、感覚だけがやけに鮮明だった。
火の妖獣が放った熱を参考に、己がMPを妖術に活用し、一撃に込めた。
無茶とも言えるぶっつけ本番の応用――しかし、それは確かに結果を生んだ。
「……これが、私なりの進化」
呟きは、己の存在を確認するようなものだった。
誰に聞かせるでもなく、しかし誰かに伝わってほしい想いがそこにはあった。
「ビッグ・ボンバー……。タカシ様との冒険でも、幾度となく助けてくれた必殺技でした。しかし……」
振り返ると、かつての戦いの記憶が脳裏をよぎった。
全力で大槌を振り下ろし、大地すら穿つその力。
腕力と質量、勢いに任せた豪快な技は、確かに強力だった。
だが、それだけでは倒せない敵もいる。
大和連邦への渡航前、聖女リッカに敗北したのは記憶に新しいところだ。
あの日の悔しさと絶望、そしてタカシへの思いが彼女を突き動かしている。
「レオ・ボンバー。……いい名前のはずです。タカシ様なら、きっと褒めてくれるでしょう……」
呟いた名に込めたのは、尊敬する者への報告、そして小さな誇り。
レオ――それは古き言葉で「獅子」を意味する。
そんな古代語の響きが、ミティの中で力強く鳴り響いていた。
ビッグ・ボンバーに、妖獣の熱を。
爆発的な推進力を。
そして、何よりも自分自身の中に眠る獣性を。
すべてを注ぎ込んで作り上げた新たなる技、それがレオ・ボンバーだった。
「……ふふ。まだまだ、こんなものでは終わりませんよ」
呟きと共に、彼女の瞳は遥か地平の先を捉える。
ここに来たのは、力を磨くため。
そして、美帝としての名を大和に知らしめるため。
仲間と再会する目処が立たなければ、このまま南西へと抜け、桜花藩を目指すのもいい。
だが今は、死牙藩の北東――山林と湖畔が交錯する地に、たった一人で足を踏み入れたばかりだ。
この地でミティは新たな必殺技をいくつも身につけ、その実力を飛躍的に伸ばすことになるだろう――。
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