【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

897話 クソが……

公開日時: 2023年1月9日(月) 12:06
文字数:2,304

 どこからか転がってきた巨大な魔石を飲み込み、ブラックタイガーは強化されてしまった。

 いくら強いフレンダとは言っても、さすがに一人では厳しいかと思ったのだが――


「す、すごい……! これがフレンダ姉さんの実力……!!」


「なんですかあのスピード……。5……いや7……!? 今フェイント何回入れました!?」


 取り巻き二人が興奮している。

 全力のフレンダは、かなりの速さだった。

 取り巻きたちではスピードを追いきれていないようだ。


「ふむ……。なるほど、素晴らしい動きだ」


 まぁ、視力強化のスキルを持つ俺ならば捉えられるがな。

 『雷天霹靂2』状態のモニカや『聖闘気”六聖の型”』状態のアイリスよりも少しだけ下なぐらいだろうか?

 加護の恩恵なしでこのスピードなら、十分すぎるほど速い。


「だが、悲しいかな……。やや威力不足のようだ」


 フレンダの戦闘技法の正体はまだ教えてもらっていない。

 だが、見ているだけでもある程度の推測はできる。

 特殊な闘気のようなものを体に纏って戦っているようだ。


 『闘気術』はこの国、いやこの世界で広く使われている。

 それに対して、聖魔法の魔力を織り込んだ『聖闘気』という亜種も存在する。

 フレンダの戦闘技法も、闘気術の亜種の一つなのかもしれない。


「闘気は、体のどこに配分するかがポイントだが……」


 今のフレンダは、足に7割、その他の全身に満遍なく3割といったところか。

 足を重点的に強化しているので、スピードは出る。

 その他も満遍なく強化しているので、ブラックタイガーに不意を突かれたとしても致命傷を負うことはない。


 だがその配分では、パンチなどによる攻撃力も落ちる。

 上手くキックで攻撃するか、タイミングを見て腕に闘気を振る必要があるだろう。


「あは~。魔物と言っても、ここは弱点でしょ~?」


 そう言うと、フレンダはブラックタイガーの股間に向けて強烈なキックを放った。

 あれは、金的攻撃だな。


「グルァアアッ!?」


 それは見事にクリーンヒットして、大きなダメージを与えた。

 同じオスとして同情を禁じ得ない。

 俺もタマがヒュンッとなった。


「うん。ダメージはちゃんと通ったね~」


 フレンダは満足そうに呟く。

 だが、その一瞬の油断を突かれた。


「グォオオッ!! グガガガガッ!!」


 ブラックタイガーが怒りの雄叫びを上げる。

 そして、体のアチコチから炎を吹き出した。


「わっ、と……!」


「ガルルァッ!!」


 ブラックタイガーが暴れ出す。


「あは~。怒ったみたい。でも、遅いんだよねぇ~」


 フレンダは冷静だった。

 落ち着いて炎を見極め、ブラックタイガーの首あたりに移動する。


「これで終わり。可哀そうだけど、首を折らせてもらうよ~?」


 そして、フレンダは首の部分に狙いを定めて蹴りを放つ。

 トドメの一撃として、闘気も足に集中させている様子だ。


「グルル……!?」


 だが、それは失敗に終わった。

 ブラックタイガーは大したダメージを受けていない。


「うそっ!? 首周りだけ特に固いなんて! 聞いてない!!」


 フレンダが一瞬動揺する。

 そのスキが仇となった。


「ガルルルッ!!」


「あぐぅっ!?」


 フレンダは、ブラックタイガーの体当たりによって弾き飛ばされてしまう。


「フレンダ姉さん!?」


「ただの体当たりで、フレンダ姉さんがダメージを……?」


「いや……。フレンダの闘気が足に集中しているスキを突かれたんだ」


 俺は取り巻きたちに解説する。


「「え?」」


「知っているとは思うが、闘気は攻撃にも防御にも活かせる戦闘技法だ。しかしそれは同時に、一歩使い方を誤れば窮地に陥るデリケートな技術でもある」


 たとえば、攻撃用に闘気を割り振りすぎて、防御がおろそかになるというケースが考えられる。

 まさに今のフレンダのような状況だな。

 まぁ、彼女の場合は相手が強敵なので、ある程度は仕方ないのだが……。


「フレンダ! 加勢しようか! それとも治療を?」


「ううん……。まだ大丈夫!!」


 フレンダはすぐに起き上がり、再び攻撃を仕掛ける。

 さすがはBランク冒険者だけあって、立て直しも早い。


「せいっ!」


「ガルルルル!!」


 フレンダとブラックタイガーの戦いは熾烈を極めた。

 だが、やはり先ほどのダメージが大きかったようだ。

 フレンダの動きが精彩を欠き始めている。

 そして――


「グォオオオッ!!」


「あうっ!?」


 ボキッ!

 嫌な音が響く。

 フレンダの左腕の骨が折れたようだ。

 今度こそ、潮時だろう。


「イッたな左腕。フレンダ! 俺と代わるか?」


 俺はそう声を掛ける。

 フレンダとの戦闘によって、ブラックタイガーの戦闘能力を把握できた。

 俺ならば、たぶん倒せると思う。

 しかし俺の言葉を受けたフレンダが返したのは、了承の言葉ではなかった。


『クソが……』


「ん?」


 俺は何かに違和感を覚えた。

 何だろう?

 フレンダのピンチではあるが、違和感を覚えるべき場面ではないよな?

 自分の油断から窮地に立たされたフレンダが苛立ちのセリフを言うのは当然と言えば当然だし。

 せいぜい、思ったよりも言葉遣いが汚いぐらいだ。


『調子に……乗りやがって……』


 フレンダがそう呟く。

 相当に苛立っているようだ。

 彼女の感情に呼応してか、闘気や魔力の出力もグンと増している。


「ま、マズイです!」


「逃げましょう! 巻き添えをくらいますよ!!」


「へ?」


 突然、フレンダの取り巻き二人が撤退を進言してきた。


「どうして撤退なんかするんだ? フレンダのピンチなんだから、助けるべきだろうに」


「いえ! フレンダ姉さんなら大丈夫です!!」


「それより、あの謎の言語を使い始めたときのフレンダ姉さんはガチでヤバいんです! ハイブリッジ男爵様でも、巻き添えをくらったらタダでは済みませんよ!!」


 二人がそう力説する。

 その迫力に押されて、俺は渋々撤退を選ぶことにしたのだった。

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