数日後――
「くくっ……。桜花城の掌握は完璧だな」
俺は桜花城の天守閣から城下を眺める。
あの日、ついに景春は俺に屈服した。
しつこく使っていた『余』という一人称を『あたし』に改め、自分が藩主ではなく一人の少女であることを認めたのだ。
それは、景春の自己認識だけの問題にとどまらない。
大広間には桜花七侍の他、多数の家臣が集まっていた。
少しばかりくすぶっていた俺に対する不満も、これで完璧に解消できたことだろう。
問題は何も残っていない。
と言いたいところだが……
「むうぅ~!!」
「ったく……」
「…………ずるい」
3人が不満の声を上げている。
その3人とは、紅葉、流華、桔梗だ。
彼女たちは俺に対して抗議の視線を向けている。
いや、正確に言えば俺の懐にいる少女に対して、か。
「景春……少し離れてくれ」
「どうして? 別にいいじゃない。ようやく藩主の重圧から解放されたんだから」
景春が答える。
彼女は俺の膝の上にちょこんと座っていた。
もはや、『民に対して重税を課した悪どい藩主』という雰囲気は全くない。
15歳前後という見た目相応の振る舞い……いや、むしろ幼く無邪気な雰囲気さえ感じられる。
「今思えば、あたしは藩主の立場に疲れてたのかも! あんたのおかげで、ようやく肩の荷が下りたわ!」
景春は快活に言う。
性格が変わりすぎて、ちょっと心配になる。
まぁ、元藩主としてのメッキを強引に剥がしたのは俺なのだが。
いわゆるストックホルム症候群……とは少し違うか?
何にせよ、彼女の精神状態には注意が必要かもしれない。
「そ、それは良かったな。……さて、そろそろ離れてくれないか?」
「嫌よ! あたしをあんな目に合わせておいて……。責任取りなさいよ!」
景春は頬を膨らませる。
その表情は、年相応に可愛らしい。
「あんな目って?」
「とぼけないでよ。みんなが見ている前で、あたしを凌辱したくせに……」
「ひ、人聞きの悪いことを言うな。そりゃ、多少は恥ずかしい思いはしただろうが、凌辱はしていないぞ」
「似たようなものでしょ! ……とにかく、あたしはあんたに逆らえない体にされたんだから! もう、離れろって言われても離れないわよ!」
景春はぷいっと横を向く。
その仕草が可愛らしくて、思わず笑みがこぼれた。
しかし、いつまでもこうしてはいられない。
紅葉たちの視線が痛いし、それに……
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