人魚の里での活動も、今が佳境だ。
アビス・サーペントが、俺たちに襲い掛かってくる。
俺は拳を握りしめると、エリオットを見据えながら構えた。
「ほう? 逃げないのか?」
エリオットは愉快そうに笑う。
彼はアビス・サーペントを前面に押し出すように、ゆっくりと前進してきた。
「もう勝敗はついたも同然だが……。逃げないというなら相手をしてやろう」
エリオットはニヤリと笑うと、アビス・サーペントに命令を下す。
すると、アビス・サーペントは勢いよく襲いかかってきた!
「【聖拳】!!」
俺は右拳に聖なる力を込める。
そして、迫ってくるアビス・サーペントに対して正拳突きを放った。
俺の拳を正面から受けたアビス・サーペントは、大きく弾き返される。
「むっ!? ……ふむ。多少はやるようだ」
エリオットが呟くと同時に、アビス・サーペントが水球を吐き出した。
俺はそれを難なく躱していく。
そこに――
「海の精霊よ! 我らの怨敵に災禍を!! 【ダークネス・ブラスト】」
エリオットが魔法を放った。
黒い霧のようなものが俺に迫る。
俺はそれを片手で弾いた。
「まだまだぁ! ――【国宝・海神剣】ん!!」
エリオットが斬りかかってきた。
おそらくは、これも宝物庫から持ち出したものだろう。
その剣は見るからに上物であり、アビス・サーペントの牙と似た形状をしていた。
「くらえぇっ!!」
エリオットが剣を振り下ろす。
俺もアイテムボックスから鉄剣を取り出し、それを受け止めた。
「ぐぅ……!!」
重い……!
想像以上のパワーだ!
俺の見立てでは、エリオットの強さは中の上ぐらいだと思っていたが……。
それが一気に跳ね上がっている!
これが魔道具『玉手箱』の力……。
「おいおい、考え事をしている暇はないぞ!?」
エリオットの連撃が俺を襲う。
俺はそれを必死に捌いた。
ドーピングされた状態で国宝の海神剣を使われると……さすがに厄介だ。
そもそも、ここは海中であり人魚の方が圧倒的に有利な上、俺は『海神の呪鎖』によって弱体化しているしな……。
俺は防戦一方になってしまう。
「くははっ! どうした、人族よ!! さっきから守ってばかりだな!!」
エリオットは高笑いしながら剣を振るい続ける。
彼は完全に戦闘の快楽に呑まれていた。
「いつまでも調子に――むっ!?」
俺の反撃が空振りする。
直後、気付いた。
エリオットの後方で、アビス・サーペントが攻撃の準備に入っていることに。
「『海神の化身』よ! あの人族を薙ぎ払え!!」
エリオットが叫ぶと同時に、アビス・サーペントの口から強烈な水球が放たれる。
俺がエリオットに集中している間、たっぷりと力を溜めていたのだろう。
魔力によって固められたその水球は、まるで砲弾のようだった。
「ちぃっ! 間に合うか……!?」
俺は慌てて回避行動を取る。
あのレベルの攻撃をまとも喰らえば、チート持ちの俺でもただでは済まないだろう。
だが――現実は非情だった。
アビス・サーペントの水球の速度が想像以上に速かったのだ。
「ぐっ……! 間に合わな――」
巨大な水球が俺に迫ってくる。
俺は思わず、目を瞑ってしまうのだった。
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