チュンチュン。
小鳥たちのさえずりで目が覚めた。
「おはようございます、旦那様」
目の前にいたのは、全裸の女性だ。
彼女は俺が起きるのを確認すると、丁寧に挨拶してきた。
「あ、ああ。おはよ」
俺は若干寝ぼけながらも、彼女に応じる。
貴族である俺に対して丁寧に接してくる者はたくさんいる。
だが、肉体関係を結んでいる女性に限定すれば、意外に少ない。
丁寧語くらいならまだしも、様付けで呼ぶレベルとなると……。
ミティ、レイン、ナオミぐらいか?
だが、今俺の目の前にいる女性は、その3人の誰でもない。
「ええっと……」
「どうしましたか?」
「その丁寧過ぎる口調はどうしたんだ? 月」
そう。
俺の前で恭しく頭を下げているのは、昨日俺の女になったばかりの月だったのだ。
「私なりに考えた結果です」
「ほう」
「これで私もめでたく妻となるわけですし、夫を立てる必要があると判断しました」
「……え?」
「え?」
「……」
「……ち、違うんですか!?」
「いや、俺は一言も妻にしてやると言った覚えはないが」
男として、愛した女の面倒を見る必要はある。
だがそれはそれとして、正式に妻とする者は慎重に選んでいく必要がある。
すでに8人もの妻がいるのだ。
あと数人ぐらいは大丈夫だろうが、15人とか20人になってくるとさすがにマズイ気がする。
「そんなっ! ……じゃ、愛人なんですか? 嘘でしょう? だって、昨日の夜だってあんなに激しく……」
「まぁ、それだけ月が魅力的だったからな。普段ツンツンしているお前が可愛く乱れるのは、最高だった」
「なっ!」
月の顔がみるみると赤くなっていく。
「と、とにかく、私の初めてを奪っておいて、責任を取らないなんて許されませんよ」
「……確かにそうだな」
「でしょ?」
「よし、分かった。とりあえず、しばらくは愛人として頑張ってくれ。いずれは然るべき対応を考える。……ああ、もちろん、冒険者としても活躍を期待しているからな」
ふふふ。
可愛く魅力的で、領地の発展にも貢献してくれる。
「月はなんて便利な女なんだ」
「はぁっ!?」
月が憤怒の表情を浮かべる。
やべ。
軽率な発言だった。
マズイ……。
「お、女の敵ー!!!」
「ぷげらっ!」
彼女の拳が俺の顔面を捉えたのであった。
*****
「まったくもう!」
プンスカ怒りながら、服を着替える月。
さっきからずっとこの調子だ。
「悪かったって……」
俺はひたすら謝っている。
「だいたいハイブリッジ男爵は、女性を何だと思ってるのよ?」
「そりゃ、美しく魅力的な宝物で……」
「そういうことを聞いているんじゃない!」
「はい」
「本当に反省してる?」
「もちろん」
「……」
「してます」
「……本当ね? なら、許してあげるわ。将来的には、ちゃんと私を妻に迎えるのよ?」
「善処させていただきます」
「約束だからね!」
「はい」
「うむ。よろしい」
ようやく、月が機嫌を直す。
敬語を使う彼女も魅力的だったが、こっちの強気な月も良いな。
俺は満足だ。
彼女との一夜は素晴らしいものだったことに加え、彼女が加護(小)の条件を満たしたのだ。
レベル?、神宮寺月
種族:ヒューマン
身分:神宮寺家次女
役割:ハイブリッジ男爵家御用達冒険者
職業:影魔法使い
ランク:C
HP:??
MP:高め
腕力:??
脚力:??
体力:??
器用:低め
魔力:??
残りスキルポイント:???
スキル:
剣術レベル4(3+1)
影魔法レベル4(3+1)
気配察知レベル2
??
これでめでたく、雪月花の三姉妹全員が加護(小)を付与されたことになる。
三姉妹で一人だけ仲間外れにならなくて良かった。
彼女たちの冒険者活動も、ますます順調に進んでいくだろう。
「これからも頑張ろうな」
「ええ」
俺の言葉に、月が微笑みながら答えた。
「……ところで、一つ聞きたいんだが」
「ん? なにかしら?」
「月って処女だったんだよな?」
「…………」
無言で俺に近付いてきた月の鉄拳が、俺の頬を捉えて吹き飛ばした。
「痛え……」
「ふんっ! 当然の報いよ! なんてことを聞くのよ!?」
「だって、月ってば、あんなに大きな声を出していたし……」
「あれは、あなたが無理矢理……。やめてっていったのに」
「でも最後は気持ち良さそうにしていたじゃないか」
「き、気持ち良くなんかなかったわ!」
「またまた~」
顔を真っ赤にして、ぷりぷりと怒る月。
そんな彼女を眺めつつ、俺はニヤリとした笑みを浮かべる。
やはり可愛い。
ツンデレというやつだろうか。
今までの女性陣にはいなかったタイプである。
「あ、もう一つ聞いてもいいか?」
「……なによ? またくだらないことだったら……」
月がジト目でこちらを見てくる。
「雪月花の三姉妹って、名前を漢字で書くだろ?」
「ええ」
「なんでなんだ? この国ではほとんど漢字が使われていないはずだが」
「ああ、そのことね。言ってもいいのかしら……」
「もったいぶらないでくれよ。俺とお前の仲じゃないか」
「……まぁいいわ。あなたは信頼できるし。……私たちはヤマト連邦出身だから、名前に漢字が使えるのよ。育ちはこの国だけどね」
「なるほど。そうだったのか」
まぁ、身分の欄に『神宮寺家』と書いてあるから、それなりの名門の娘だろうなとは思っていたが。
この国の貴族に、神宮寺家は存在しない。
やはりヤマト連邦の出身だったか。
「ふーむ……」
「なによ?」
「いや……。近いうちに長期の護衛依頼を出すかもしれない。予定を空けておいてくれないか?」
ヤマト連邦への潜入作戦は極秘事項だ。
王家とミリオンズ以外に知る者はほとんどいない。
ハイブリッジ男爵家の御用達冒険者である月といえども、現状では知らせていなかった。
だが、ヤマト連邦出身というなら話は別だ。
育ちはサザリアナ王国らしいので道案内役にはならないだろうが、連れて行ってみてもいいかもしれない。
「分かったわよ。元々、ハイブリッジ男爵家以外からの仕事は控えめにしてるしね。何をさせるつもりか知らないけど、見返りは期待してるわよ? 旦那様」
月はご機嫌な様子で、そう冗談めかしたのであった。
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