俺は新技『獄炎滅心』を発動し、ファイアードラゴンに向かっている。
俺とともにファイアードラゴンに接近戦を挑むのは、モニカとユナだ。
「術式纏装『雷天霹靂』」
「赤狼族獣化!」
「ゴア? ゴアアアァッ!」
ファイアードラゴンがこちらを認識し、雄叫びをあげる。
やや小さめのブレスを放ってくるがーー。
「ふん。そんな攻撃が当たるか!」
先ほどのような不意打ちであればともかく、今の集中した局面でブレスなどを受ける俺ではない。
そしてそれは、モニカとユナも同様だ。
俺たち3人は、ブレスを軽くかわす。
「はああ……! ダブルファイブ・ショットガン!」
モニカが足から闘気弾を放つ。
普段であれば直接蹴っているが、ファイアードラゴンの高熱を警戒して闘気による中距離攻撃を行っている。
「ふんっ!」
ユナが闘気を込めた鋭い矢を放つ。
普段であれば炎を纏って攻撃することもある。
しかし、ファイアードラゴン相手に炎はイマイチ効きが悪いはず。
ムダなMPを消費する必要はないという判断だろう。
「ゴアアアァッ!」
ファイアードラゴンが再び雄叫びをあげる。
多少のダメージは与えられているようだ。
しかし、自分の近くをうろちょろする小物にイラツイているだけのような印象も受ける。
人間で例えれば、顔の近くを蚊やハエが飛び回っている感じに近いかもしれない。
そのおごりを砕いてやろう。
「斬魔一刀流……氷冷斬!」
俺は氷を纏った一閃を放つ。
火炎斬と対になる剣技だ。
ビスカチオから火炎斬を教わったときに、氷冷斬も概要だけは教わっていたのである。
ここ最近で水魔法を大幅に強化したことと、『聖騎士』の二つ名を持つシュタイン=ソーマ騎士爵というお手本から指導してもらったことにより、ついに習得に至ったわけだ。
まあ、こちらは火炎斬系統の剣技に比べてまだまだ未熟だが。
「ゴアアアァッ!」
ファイアードラゴンが負けじと反撃してくる。
俺は軽くかわす。
やつの攻撃手段は、大きく3パターン。
ブレス、前足のツメによる切り裂き、尻尾による薙ぎ払いである。
もちろん他にも攻撃手段はある。
例えば、体当たり。
高熱の巨体をぶつけられるだけでも致命傷になり得る。
気の抜けない相手だ。
俺、モニカ、ユナの3人でファイアードラゴンにチクチク攻撃をしていく。
後方からミティやアイリスたちによる援護もある。
「ゴアアアァッ!」
ファイアードラゴンが強烈なブレスを再び放ってくる。
もちろん俺たちに当たることはない。
「何だか、ブレスが強くなってきていないか?」
「そうだね。本格的に、私たちを敵だと認識したのかも」
竜種は人間よりも格上の存在だ。
竜種から見た人間は、人間から見た蚊やハエぐらいの存在だろう。
近くに来れば鬱陶しさから追い払おうとするが、あまり本腰を入れて殺そうとは思わない。
しかし、あまりにも長時間耳元でウロチョロしていれば、本気を出してぶち殺そうとしてきてもおかしくない。
「まだまだ底が見えないわね……。ドラゴンに勝つのは骨が折れそうだわ」
ユナがそう弱音を吐く。
「確かに、厳しい戦いになりそうだ。マリアを早く治療するために、短期決戦を挑みたいが……。闘気やMPの残り具合はどうだ?」
「ええっと。私の闘気とMPは、半分を切っちゃったよ」
「ふふん。私も同じくらいね。でも、何とかするしかないわ。他のみんなが近接を挑めば、かなり危険だもの」
「ああ。だがせめて、あと1人でもいてくれたらな……」
前回のスキル強化時に、ファイアードラゴン戦をもっと強く意識しておくべきだったか?
みんなそれぞれ、既存のスキルとファイアードラゴン戦を意識してバランス良くスキルを強化してきた。
もっとファイアードラゴンに特化したスキル構成にしておけば、あるいは……。
いや、過ぎたことをあれこれ考えても仕方ない。
「この際だ。ぶっつけ本番になるが、俺のさらなる新技を出すぞ」
「タカシ!? 危ないよ」
「その通りだわ。もし失敗したら……」
モニカとユナがそう懸念の声を上げる。
確かに、失敗したらヤバい。
通常の魔物戦であれば、多少の失敗はパーティメンバーにより補ってくれる。
しかし今は、ファイアードラゴンという強敵が相手だ。
少しのミスが致命傷になり得る。
「マリアの命がかかっているんだ! 悠長なことはしてられん! はあああぁ……」
俺は魔力と闘気を剣に込め、ファイアードラゴンに駆け寄る。
「斬魔一刀流……獄氷斬!」
俺は氷を纏った一閃を放……てていない!?
ただの剣閃になった。
「ゴアアアァッ!」
ファイアードラゴンがこちらに反撃をしてくる。
噛みつき攻撃か。
大きな口が俺に迫ってくる。
今までの攻撃は、ちゃんとやつのスキを突いてチクチク攻撃していた。
しかし今の一撃は、焦りから闇雲に攻撃してしまった。
また、氷を纏っていなかったことにより、やつがほとんどダメージを受けずに怯まなかったことも大きい。
やつに絶好の反撃の機会を与えてしまった。
「回避を……。ぐっ!?」
不意に腕に痛みが走り、俺の動きが鈍る。
マスターしていない獄氷斬をムリヤリ発動させようとした反動か。
こんなことをしている間にも、ファイアードラゴンの大口はすぐそこまで迫ってきている。
「「タカシッ!」」
モニカとユナが俺を助けようとしてくれているが、ギリギリ間に合いそうにない。
なんだか今日は失敗続きだな、俺……。
即死さえしなければ、治療魔法で何とかなるか?
せめて、急所はガードしておこう。
「鉄心」
俺は闘気を強め、ファイアードラゴンの攻撃に備える。
そのときー。
「マリア・フレイムバスター・キーック!!!」
謎の人物がファイアードラゴンの口に横から飛び蹴りをかました。
やつの口がそれる。
そのスキに俺は距離をとり、体勢を立て直した。
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