僕様ちゃんはミリオンズ下っ端と戦っているです。
信じがたいことですが、ドラゴンは彼女たちの制御下にある様子でした。
しかし、森林火災を恐れてブレスの威力は控えめです。
(今のうちに体勢を立て直すです)
そう思った矢先のことです。
「――【火竜纏装・豪炎爆華】」
赤髪の女が呟くと同時に、凄まじい魔力が吹き荒れました。
それは彼女とドラゴンを中心にして渦を巻き、周囲の空気を焦がすほどの熱量を放っていたのです。
「くっ……! なんて魔力ですか……!!」
そのあまりの凄まじさに、僕様ちゃんは気圧されてしまいます。
しかし同時に、不可解さも感じました。
これほどの魔力で炎系の魔法を発動すれば、森林火災は必至。
先ほどの口ぶりでは、彼女としても自然破壊は本意ではないはずなのですが……。
そんな疑問を抱いていると、さらに彼女とドラゴンの魔力が高まっていきました。
そして次の瞬間――
ブワッ!!
膨大な炎が舞い上がりました。
それらは空中で混ざり合い、一つの塊を形成していきます。
その中心には、炎に包まれた赤髪の女の姿がありました。
ドラゴンの姿は見当たりません。
「ふふん。これが私たちの全力よ」
不敵に笑う女の周囲には、炎のようなオーラが立ち上っています。
そこらの一般人であれば、近寄っただけで火傷してしまいそうです。
「火魔法系の纏装術……? いや、これは……!」
僕様ちゃんは戦慄しました。
まさかこれほどの力を隠し持っていたとは……。
僕様ちゃんは知らずのうちに喉を鳴らしていました。
「ふふん。見ての通りよ。私とドラちゃんが力を合わせ、一つとなった姿ね」
言いながら、女は右腕を掲げます。
するとそれに呼応するかのように、炎のオーラが集まっていき――巨大な槍の形状を成していくではありませんか。
「まずは小手調べ――【紅蓮葬送槍】!!」
巨大な槍と化した炎が、僕様ちゃんに向かって放たれます。
咄嗟に回避しようとしたものの間に合わず――
ドッゴォオオオンッ!!!
激しい衝撃とともに吹き飛ばされてしまいました。
「ぐあっ!?」
ゴロゴロと地面を転がり、そのまま大木に激突します。
「かはっ……!」
肺の中の空気が全て吐き出されてしまい、一瞬呼吸困難に陥ります。
それでもなんとか意識を保ち、立ち上がります。
「くっ……! ふざけた威力と制御力です……!」
見れば先ほど僕様ちゃんが立っていた場所は、大きく地面が抉れています。
まるで隕石でも落ちたかのようなクレーターが出来上がっていたです。
もし直撃していれば、今頃僕は消し炭になっていたことでしょう。
(冗談じゃねーです! こんなのまともに食らったら黒焦げになって死ぬです!)
冷や汗を流しつつ、僕様ちゃんは赤髪女に視線を向けます。
「ふふん。降参するなら今のうちよ?」
「……誰がするかです!」
言い返しますが、内心かなり焦っています。
まさかドラゴンの力を身に纏う奴がいるとは……。
僕様ちゃんも『神霊纏装』は神の力を使えるですが、あくまで神の力の一端に留まるです。
もし彼女の纏装術がドラゴンの力を十全に引き出せるのであれば、分の悪い勝負と言わざるを得ないです。
(こうなったらもう出し惜しみしている場合じゃないです……)
決意を固めた僕様ちゃんは、ゆっくりと目を閉じます。
奴らは余裕ぶってるのか、和服の剣士や金髪の雷女は傍観しているです。
少しばかりの時間さえあれば、奥の手を出せます。
僕様ちゃんは全神経を集中させて、体内で魔力を練り上げ――
「させませんよ?」
目の前から声を掛けられました。
慌てて目を開けた僕様ちゃんの前にいたのは、メイド服の少女でした。
「なっ!? いつの間に!?」
和服の剣士や金髪の雷女ばかり警戒していたです。
まさか、超速移動を可能とするメンバーが他にもいたとは……!
しかもこのメイド少女からは、全く移動の気配を感じませんでした。
それほどまでに洗練された超速移動術を持っているということでしょうか?
いや、これは単純な速さとはまた別の――
「考え事なんて、ずいぶんと余裕ですね? さすがはお館様を倒したと嘯くだけのことはあるようです」
そう言って微笑む少女。
笑顔の奥に、隠しきれない敵意が見え隠れしているです。
彼女は、両手で握った剣を構えます。
メイド少女に剣。
一見アンバランスな組み合わせですが、そこに付け入るスキはありません。
(何者ですか、こいつ……?)
なかなかの実力を感じるです。
おそらくただの使用人ではありません。
「ユナ様! 私が時間を稼ぎますので、大魔法の準備をしてください!!」
メイド剣士が叫びます。
どうやら、赤髪女はユナという名前らしいです。
どこかで薄っすらと聞いたような気もしますが、あやふやです。
はっきり言って、4番手以下の構成員はノーマークでした。
「ふふん。わかったわ、レイン。トドメは私に任せなさい!」
赤髪女は自信満々に答えます。
よほど自分の技に自信があるのでしょうか?
それともハッタリでしょうか?
どちらにせよ、油断はできない相手なのは間違いありません。
(ここは一旦退避するしかねーですね)
僕様ちゃんは素早く反転し、逃走を試みます。
しかし――
「逃しませんよ?」
いつの間にか背後に回り込んでいたメイド少女が、目にも止まらぬ速さで斬りかかってきました。
ガキィンッ!!
しかし間一髪のところで間に合ったです。
レイピアを抜いて応戦しつつ、内心で舌打ちをします。
(ちっ……。剣術自体は上の下くらい……赤髪よりも少し上程度ですが……。動きが不可解です! 何より、相手は時間稼ぎが目的というのが……)
僕様ちゃんは焦ります。
メイド剣士に足止めされている間にも、赤髪女の詠唱は進んでいるです。
その上、他の6人も控えている状況。
正直なところ打開は厳しい……。
ですが、降参して舐められるわけにはいかないです。
聖女たる僕様ちゃんの底力を思い知らせてやるですよ!
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