サザリアナ王国とオーガの国との間で、戦争が勃発している。
俺とアイリスは敵国に潜入し、国王夫妻らしき2人を暗殺した。
もっと平和的な解決手段はなかったのかと、俺はつぶやくが……。
「ううん。ここまでやらないとダメだったよ」
アイリスは首を横に振る。
彼女は心優しい性格だ。
しかし、決して優柔不断ではない。
先にサザリアナ王国へ戦争を仕掛けてのは、相手だ。
そんな相手に情状酌量の余地などあろうはずもない。
「そうだな……。俺たちに立ち止まっている時間はない」
俺はうなずくと、その場を後にしようとする。
トップが死亡した以上、これからオーガの国は混乱していくはずだ。
その隙に、国境付近の戦いはこちらが優位になるだろう。
「タカシ。待って」
アイリスが俺を引き止める。
彼女は険しい顔をしていた。
「どうした?」
「……何かいる」
「え……?」
俺は思わず身構える。
オーガの宮殿の最奥部に至るまで、俺たちは隠密行動に徹してきた。
警備兵のほとんどはスルーできている。
強者6人の集団とは遭遇してしまったものの、問題なく始末した。
宮殿内に入ってからは、大きな騒ぎを起こしていない。
誰にも気づかれていないはずだ。
しかし、アイリスは何かがいると断言している。
「ここは最奥部だぞ? ここに来るなんて、王族ぐらいしか――」
そこまで口にしたところで、俺はハッとする。
国王や王妃以外にも王族はいる。
おそらく、王弟か、王子か。
あるいは……。
「タカシ……どうしよう?」
「……これは想定外だな」
俺はアイリスと顔を見合わせる。
姿を現したのは、まだ8歳ぐらいの女の子だった。
「もしかして王女か? いくら敵国の王族とはいえ、これは……」
俺はためらう。
ハーピィの少女は、震えながらも俺を睨んでいる。
彼女は、不思議な雰囲気の杖を右手に持っていた。
「タカシ。殺すのは避けて、捕虜にしよう」
アイリスは淡々と告げた。
彼女がそう言う以上、それが最善の方法なのだろう。
「……わかった」
俺は王女らしき少女の下へゆっくりと近づいていく。
彼女は一歩も引かない。
「抵抗するな。大人しくしていれば、命は保障しよう」
俺は彼女を威圧する。
少女は、俺の言葉を理解したのだろうか?
僅かに後ずさったが……すぐに踏みとどまった。
そして、杖の先端を俺にぶつけてくる。
「……うん? これは……魔力を吸われているのか」
俺はつぶやく。
杖の先端から、俺の魔力が少しずつ吸収されていく。
「惜しかったな。俺が武闘家ではなく魔法使いなら、それで戦闘不能にできたかもしれないが……」
俺はニヤリと微笑む。
アイリスも俺も、武闘家だ。
魔法を全く使えないわけではないが、闘気や聖闘気の方が重要である。
「むん!」
俺は全身から闘気を解き放つ。
少女の杖は木っ端微塵に砕け散った。
そして間髪を入れず、俺は少女に腹パンを喰らわせる。
少女は気絶した。
これで、ひとまず安心だろう。
「よし……。そろそろ撤収しよう。国王夫妻が死亡した上、王女が捕虜になったとなれば……。戦争は一気に終わりに近づく。早く平和な日々を取り戻さないとな」
俺はそうつぶやく。
そして王女を肩に担ぎつつアイリスの手を引き、その場を後にしたのだった。
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