今日の狩りの終了挨拶をしたあと、月のケガを治療したところだ。
「……どういうことなのかしら? あなた、確かフレンダさんだったわよね。ハイブリッジ男爵とどういう関係なのかしら?」
「ん~。まだ内緒かなぁ」
「とぼけないでちょうだい! おおよその察しはついているのよ! 白状なさい!」
「それは……ねぇ? ダーリン」
フレンダはチラリと俺を見た。
ダーリンなんて呼ばれちゃ、誤魔化しようがなくなるじゃないか。
俺は軽くため息をつくと、フレンダを抱き寄せた。
「あは~。ダーリンってば、積極的なんだから~」
「……」
フレンダは顔を赤らめつつも冗談めかす。
だが、月は怖い顔をしている。
「こういうことだ。フレンダは、俺の女なんだ」
「なっ!? う、嘘でしょ……? そんな素振り、今まで一度も……」
「ああ。彼女を落としたのは、つい先ほどだからな」
俺は正直に打ち明けることにした。
俺が女好きであることはすでに広まっている。
隠すことでもない。
「お、落とした? あなた、まさか無理やり……」
「強引に迫ったりはしていないぞ。あくまで誠実に口説かせてもらった」
いや、どうだったかな?
フレンダからの魅了魔法が逆流したのをいいことに、どさくさ紛れに関係を持った感じだったかもしれない。
まぁ、細かいことはいいだろう。
「く、口説いた? あなた、正気なの? この私にもアプローチしてきているくせに……。あなたが貴族でなければ、今頃血祭りにしているところよ」
月は怒り心頭といった様子だ。
確かに、1か月ほど前の王都近郊での夜営で、彼女に『月がきれいですね』と囁いたことがある。
その後もチャンスを伺いつつ距離を縮めてきた。
普通に考えて、女性側からすれば面白くないよな。
「あは~。月ちゃんってば、焼いてるの~?」
「なっ!? そ、そんなわけないじゃない! 何を言っているのよ!」
「月ちゃんみたいな子をなんて言うか知ってる~? ツンデレっていうの~」
「つ、つんでれ……?」
月は、聞いたことのない言葉に首を傾げている。
ツンデレ概念は、この世界にはないのか?
いやしかし、フレンダは知っている様子だが……。
「そうそう。普段は好きな子に冷たく接してくるけど、本当は優しくて可愛い女の子のことだよ~」
「私が可愛いですってぇ? ふ、ふざけたこと言わないでちょうだい!」
月はフレンダを睨みつける。
「あは~。ちょっとからかいすぎちゃったかな。反省反省~」
フレンダはペロっと舌を出す。
ただでさえ混乱気味なのに、場をかき乱すんじゃない。
「まぁ、そういうことだ。フレンダは俺の女にした。だが、安心しろ。俺は月のことを諦めたわけじゃないぞ」
「はっ!? えっ!? わ、私は別に……」
月は耳をピクリと動かしながら、顔を真っ赤にする。
「ダーリン、月ちゃんの気持ちもわかってあげなきゃダメだよ~。こういう時はね~」
フレンダが俺に耳打ちしてくる。
――ふむ、なるほど。
そういうことか。
「月」
「な、何よ? 言っておくけど、私はそう簡単に落ちないからね。というか、今回ので愛想が尽きたわ。やっぱり、手当たり次第に女性に手を出す男なんか――むぐっ!?」
俺は月の口を、自分の口で塞いだ。
彼女の唇をたっぷりと味わったあと、俺はゆっくりと離してやった。
「ぷはぁっ! ちょ、ちょっと何するのよ!」
「お前、勘違いしてないか?」
「な、何を?」
「お前が俺の女になるのは確定事項なんだ。あくまで、心の準備をしてもらうために、今は我慢しているに過ぎない」
「……はい?」
月の顔がみるみると赤くなっていく。
俺は構わず続けることにした。
「お前だって、内心は焦っていたんじゃないのか? 姉の花に、妹の雪。魅力的な二人の姉妹が、先に俺の女になったわけだしな」
「そ、それは……」
「そんな時、フレンダが現れた。見目麗しく、愛嬌があり、そしてBランク冒険者として実力確かな女だ。彼女は今、俺の隣にいる。お前の心は揺れ動いているはずだ」
「……」
「分かっているさ。お前は愛人ではなく、妻になりたいんだろう? だが、それに拘ってうかうかしていたら、どんどん出遅れていくぜ」
「う、うるさい! そんなこと、分かってるわよ!」
月は叫ぶように言った。
俺はニヤリと笑う。
「その威勢の良さもお前の魅力の一つだ。しかし――」
俺は再び、月の顎を持ち上げた。
今度は先ほどのキスよりも濃厚なものだ。
「んんんんんん!!」
月が抵抗しようとするが、俺は彼女の頭をがっちりと固定している。
しばらくすると、月は俺に身を任せるようになった。
「今はただ、俺に従っていい。お前は俺の女だ。今晩、お前の初めてを奪う。分かったな?」
「……ふぁい」
月は顔を赤らめたまま、小さく返事をした。
これまでの俺は彼女の自由意思を尊重して、彼女を半ば放置気味だった。
しかし、ツンデレ気味の彼女には、こうした強引なアプローチの方が有効だったか。
俺もまだまだだな。
「さ、さすがはタカシの旦那だ……。あのジャジャ馬の月を……」
「いや、サラッと流しているが、あのフレンダとかいう女を落としたのも有り得ねぇだろ! Bランクだぜ!?」
「す、すげー!」
「俺たちに出来ないことを平然としてのけるッ!」
「そこに痺れる憧れるゥ!」
トミーやアランを始めとして、冒険者たちが歓声を上げる。
おっと。
意図せず、彼らの忠義度も上がったようだ。
女性を口説きまくっている俺は、男たちから嫉妬心を向けられることもある。
なにせ、手当たり次第に女性を口説いているからな。
今回は、冒険者たちから見ても高嶺の花であり攻略難易度の高いフレンダや月が対象だったということで、忠義度が上がる結果となった。
しかし、場合によっては下がることもあるだろう。
例えば、そこらの町娘を手籠めにしたりすれば、いろんな方面からの忠義度が下がりそうだ。
そのあたりには気をつける必要がある。
「……改めて見ても、フレンダ姉さんがこんな男の毒牙にかかるなんて……」
「本人が幸せそうだから何も言わないけれど……。私は絶対にごめんだわ……」
実際、こういう声も聞こえてくるわけだしな。
声の主は、フレンダの取り巻きである二人だ。
彼女たちはハーレム否定派か。
チャンスがあればフレンダともども手を出したかったのだが、諦めた方が無難そうだな。
まぁ、初対面のときから忠義度が低めだったので、あまり本格的には狙っていなかった。
べ、別に負け惜しみというわけではないからな。
今日だけでもフレンダを落とし、月に王手をかけている。
それで十分だ。
俺はそんなことを考えながら、今日の狩りを終えたのだった。
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