ミリオンズとラスターレイン伯爵家との戦闘中である。
一度はリールバッハたち5人を戦闘不能に追い込んだが、センの中級の治療魔法により回復されてしまった。
サリエの最上級治療魔法とは異なり完全回復ではないのが救いか。
センを優先的に撃破したいところだが、リールバッハたちの水魔法に邪魔されて簡単には近づけない。
うまく分断するか、遠距離攻撃か。
何か対策を立てて戦う必要がある。
俺がそんなことを考えているとき。
「みなさん。わたくしにお任せを」
リーゼロッテが前に出る。
「ふん。一族の落ちこぼれであるリーゼロッテが、私たちの水魔法に張り合うつもりですか? なめられたものですね」
「一族の責務を忘れたやつが、俺たちに勝てるか!」
リカルロイゼとリルクヴィストがそう言う。
確かに、リーゼロッテ自身も以前そのようなことを言っていた。
水魔法の名門であるラスターレイン伯爵家において、彼女はやや落ちこぼれ気味だと。
しかし、俺の『ステータス操作』の恩恵を受けた今の彼女は、もはや落ちこぼれではないだろう。
水魔法はレベル5に達し、MP強化と魔力強化もレベル4にまで伸ばしている。
「……慈しむ水の精霊よ。我が元に集い給え。悠久なる流れ。降りしきる恵みよ。アクア・マスター」
リーゼロッテが水魔法を発動させる。
しかし、彼女から水や氷が放たれる様子はない。
これは……?
シュワワワワ……。
リーゼロッテのもとに、魔力が集まってきている。
リールバッハたちが放とうとしていた水魔法だ。
「なっ!? 私の水魔法が……」
シャルレーヌが驚愕に目を見開く。
「あ、ありえん。我らの水魔法の制御を奪ったとでも言うのか!?」
リールバッハがそう叫ぶ。
相手の魔法の制御を奪う魔法か。
相当な脅威だな。
「まあ。リーゼロッテさんも、成長しているのですね。母として喜ばしい限りです」
「母さん。そんなことを言ってる場合じゃねえぜ」
マルセラののんきな言葉を受けて、リルクヴィストがそう言う。
「うむ。リーゼロッテを放置してはおけぬ。いくぞリルクヴィストよ。我らの武闘でリーゼロッテを止めるのだ」
リールバッハとリルクヴィストがこちらに向かってこようとしている。
ラスターレイン伯爵家の戦闘は水魔法がメインだ。
特に、マルセラ、リカルロイゼ、シャルレーヌは水魔法専門に近い。
例外は、武闘もできるリールバッハとリルクヴィストだけだ。
俺は彼らを迎え撃つため、臨戦態勢を取る。
しかし、彼らが駆け出したその瞬間。
「……万物を引きよせる雄大なる力よ。今ひととき、その力から彼らを開放したまえ。ゼログラビティ」
マリアだ。
マリアから中級の重力魔法が発動される。
先ほど取得したばかりだが、もう使いこなしているのか。
ふわり。
駆け出した直後のリールバッハとリルクヴィストの体が宙に浮く。
「むっ! おおっ!?」
「な、なんだってんだ!?」
彼らは混乱している様子だ。
さらに、マルセラ、リカルロイゼ、シャルレーヌ、センの体も浮いている。
「えへへ。これがマリアの新しい魔法だよ!」
「いいぞ。よくやった、マリア」
すばらしい魔法だ。
直接的な攻撃力こそないものの、次の攻撃に繋げることができる。
無重力下に放り出されたリールバッハたちには、抵抗の術がない。
降りることも、上に移動することもできない。
周囲に掴まるものはなく、その場から移動することすらできない。
できるのは、手足をバタバタと動かす程度だ。
魔法が使えれば、反動で動くこともできただろうが……。
今はリーゼロッテが彼らの水魔法の制御を奪っている。
ラスターレイン伯爵家は、完全に抵抗の術をなくしたと言っていい。
唯一の打開策が残っているとすれば、センの何らかの魔法だ。
俺は彼女を注視する。
……あ。
無重力でスカートがめくれてパンツ見えそう……。
いや、こんなことを考えている場合じゃない。
「さあ、降参するなら今のうちだぞ。セン」
俺は気を取り直して、そう言う。
このシリアスな局面でパンツに釣られている場合ではないのだ。
「くっ。なんというムチャクチャな……。わたくしの想定外のことが多すぎです……!」
センが悔しそうにそう言う。
そして、彼女が言葉を続ける。
「かくなる上は、命を削る奥の手を……」
彼女が何かをしようとしている。
本当に多芸だな。
まだ何かあるのか。
また回復されたり、転移で逃げられたりするのも厄介だ。
ここはしっかり、無力化しておかないとな。
俺が攻撃を加える準備をしているときーー。
「……慈しむ水の精霊よ。我が敵に鉄槌を下さん。罪ありし者を貫け。ジャッジメント・レイン!」
リーゼロッテが水魔法を発動させる。
事前に詠唱を進めていたようだな。
ズババババッ!
空から降り注ぐ無数の雨が、リールバッハたちを貫いていく。
レインレーザーの連射版のようなイメージの魔法だ。
「ぐ……。が……!」
「う……。ごほっ!」
リールバッハやリルクヴィストたちがダメージを負っていく。
容赦ねえな。
「くっ! 肉親を手に掛けるとは……。一族の誇りを失いましたか! リーゼロッテ!」
リカルロイゼがそう叫ぶ。
これは戦いだ。
ある程度のダメージは覚悟してもらうしかない。
もちろん死ぬほどのダメージは与えていないし、リーゼロッテもそのあたりは考えているはずだ。
俺は彼女の顔を見る。
……ん?
いや、これはどうだろう?
何やら、攻撃的な顔をしている。
いつものおっとりした表情ではない。
「一族、一族、愚かな一族……」
リーゼロッテが暗めの声色でそう言う。
様子がおかしい。
いったいどうしたんだ?
読み終わったら、ポイントを付けましょう!