「ネフィ、あれから体調は大丈夫なのか?」
とある日の昼下がり、俺は目の前にいる少年に尋ねた。
彼は魔導技師のジェイネフェリアだ。
ビリオンズの活動拠点にて、俺は彼と面会しているところである。
ちなみにだが、今日の午前はフレンダと友好を深めた。
リアリティのある血糊爆弾の開発に成功したのだ。
あれを使ってドッキリを誰かに仕掛けるのが楽しみである。
「問題ないんだよ。そもそも徹夜続きで倒れるぐらい、僕にとってはいつものことなんだよ」
「それはそれで問題だぞ。もうお前一人の体じゃないんだから」
彼が作る魔道具は質が高く、独創的だ。
ハイブリッジ男爵家にとって欠かせない存在である。
「ええっと、それはその……はうぅ……」
「ま、体調が悪くなったらいつでも言ってくれ。いつでも駆けつけるから」
「と、とりあえず今は大丈夫なんだよ。むしろ、ここ最近は調子が良いぐらいなんだよ」
「ほう? それは良いことだ」
「そうなんだよ」
「俺が座薬を入れてあげたおかげかな?」
あれは俺の自信作だ。
寝不足症状には、純粋な治療魔法では対応しきれない。
だが座薬という形を取れば、一定の効果を発揮することができるようになる。
あとは……先日彼に付与したばかりの加護(小)の恩恵も大きいだろう。
加護(小)により、基礎ステータスが2割向上する。
冒険者であれば当然戦闘能力が上がることになる。
一方、彼のように生産系の仕事に従事している者は、恩恵が少ないようにも思える。
だが、例えば体力が増せばより長い時間集中力を維持できるようになるだろうし、MPや魔力が上がれば自分で魔道具を試運転することが容易になるという恩恵はある。
「そ、そういうことは言わなくていいんだよ!!」
ジェイネフェリアは顔を真っ赤にして抗議してくる。
うん、今日も可愛い。
とても男とは思えないな。
「そう照れるなって。俺は純粋にお前のことを心配しているだけだ」
「あうぅ……」
「ほら、今日も頑張ろうぜ」
俺はジェイネフェリアのケツを叩く。
「ひゃあ!」
可愛らしい悲鳴を上げるジェイネフェリア。
「ははは。まるで女みたいな尻だな」
「うう……仕方ないんだよ。だって、僕はおん……」
「ほらほら、尻が緩まっているんじゃないか? もっとシャキッとしろ」
俺は彼のズボン越しに尻穴を刺激する。
彼は再び可愛い悲鳴を上げた。
……おっと、いかんいかん。
これ以上すると、危ない扉を開いてしまいそうだ。
男相手のセクハラはこれぐらいにしておこう。
それよりも本題に入らなければ。
「ごほん。ところで、例の魔道具もいよいよ完成したって?」
「はぁ、はぁ……。ふ、ふふふ……。実はそうなんだよ。ニッケスさんの義足を優先したから、少しだけ遅れたんだけど。ついに完成したんだよ」
「おお、素晴らしい。それを待っていたんだ。早速持ち出しても大丈夫か?」
「もちろんだよ。僕が作った『アダマンタイト粉砕機』を存分に活用するんだよ」
俺が彼に依頼していたのは、アダマンタイトという硬い鉱石を破壊する魔道具だ。
半年ほど前、リンドウの採掘場の奥に古代遺跡が発見された。
しかしその入口はアダマンタイトの巨石によって通行できなかった。
こうして特殊な魔道具を用意した今、いよいよ古代遺跡への道が開かれるわけだな。
俺たちミリオンズがヤマト連邦の件で長期間不在となる前に、入口だけでも開放しておいて損はないだろう。
「よしきた。じゃあ行こう」
「了解なんだよ」
俺たちは連れ立って歩き出す。
目指す先は、ラーグの街中にあるジェイネフェリアの工房だ。
中を覗くと、大きな魔道具があった。
「これはもう持っていってもいいのか?」
「構わないんだよ。でも、相当に重いんだよ。力持ちの人じゃないと持ち上げられないと思うんだよ」
「そうでもない。――【アイテムルーム】。ほら、これで収納できたぞ」
「えっ!? 空間魔法!?」
「どうして驚いているんだ? 俺が空間魔法を使えることぐらい、当然知っているだろう?」
空間魔法持ちはレアだ。
だが、最初級のアイテムボックス、初級のアイテムルームまでであれば、魔道具のアイテムバッグで代用できる。
そのため、空間魔法持ちというだけでは極端に重宝されるわけではないし、悪い者に狙われるリスクもさほど高くない。
俺は長い間、アイテムボックスやアイテムルームを使えることを隠さずに活動してきた。
ちなみにその一つ上――中級の転移魔法陣作成に至ると、一気に代用手段が限られてくる。
ミリオンズや各地の信頼できる者たち以外に、俺が中級空間魔法を使えることを知っている者はいない。
「えっと……。空間魔法は、収納する物の重量や体積によって必要な魔力が変わるんだよ。金貨とかの貴重品を入れられる人はそれなりにいるし、中級以上の冒険者なら狩った魔物を収納できる人もチラホラいるんだよ。でも、この大きさの物を一瞬で収納できるのは、ちょっと信じられないレベルなんだよ……」
「ああ、なるほど。そういうことね……」
俺は納得した。
空間魔法に限ったことではないが、同じ種類の魔法であっても術者によってその効果は変動する。
火魔法を習得したばかりの者が放つ『ファイアーボール』はマッチ棒で起こしたぐらいの火にしかならないが、中級者であれば野球ボール以上の大きさになる。
そして俺ぐらいになれば、小さな家一つを燃やし尽くせるほどの火力を出すことが可能だったりする。
さて。
無事に『アダマンタイト粉砕機』を回収したことだし、リンドウの古代遺跡に向かい始めたいところだ。
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