桜花城の天守閣に突入した俺。
そこで景春を守る樹影と、激しい戦いを繰り広げることになる。
そう思っていたのだが――
「ば、馬鹿な……!!」
「ふん、口程にもないな」
俺は、床に崩れ落ちた樹影を見下す。
彼女は見慣れない妖術で俺に攻撃を仕掛けてきた。
だが、チート持ちの俺に通じるはずもなかったのだ。
「ザコめ。これが小説や漫画なら、お前との戦いはオールカットになっているところだ」
俺は樹影を足蹴にしつつ、景春へと向き直る。
「さて……残るはお前だけだな、桜花景春……」
「くっ……!」
景春が悔しそうに歯噛みする。
しかし、こいつには利用価値がある。
適度に脅しつけ、従順な下僕に――
「ん?」
「景春様に……手出しはさせません」
樹影が俺の足を掴む。
そして、そのまま噛みついてくる。
「ちっ! 往生際の悪い奴だ」
俺は樹影の拘束を振り払おうとする。
だが、彼女は離れなかった。
彼女の長い髪が生き物のように動き、俺の足を絡めとる。
「無理するな。今の俺は、超高体温……。強い妖力を持つお前でも、レジストしきれんぞ?」
「そ、それでも……。私は……」
樹影の体が熱くなり、蒸気のようなものが噴き出している。
だが、彼女はなおも離れなかった。
彼女の皮膚が焦げるような臭いがする。
「翡翠の湖を守る……クシナダ様……。巫女の末裔たる私に……主を守る力を……お与えください……」
樹影がうわ言のように呟く。
クシナダ?
どこかで聞いたことがあるような……。
いや、今はそんなことを考えている場合ではない。
樹影の妖力が増している。
力の源泉が何かは分からないが、このまま放置すれば俺の力すら超えるかもしれない。
「ちっ!!」
俺は舌打ちする。
そして、樹影の首筋に手刀を叩き込んだ。
「かはっ!?」
樹影が意識を失う。
俺は彼女を雑に蹴り飛ばした。
「ふん……」
これで良し。
なかなか怖い相手だった。
いや、純粋な戦闘能力はさほどでもなかったが……。
未知の妖術、景春を守る使命感、自分の体が焦げることを厭わない執念。
そして、彼女がクシナダとか呼んでいた……謎の存在。
不気味という意味で、あまり戦いたくない相手だった。
「さて、後はお前だけだな」
俺は景春の首元に刀を突きつける。
「ひっ!?」
「動くなよ? 動けば斬る」
「わ、分かった……」
景春が頷く。
この期に及んでも偉そうだが……まぁいい。
今はこいつから話を聞くのが先決だ。
「話してもらうぞ。紅葉たちをどこにやった? それに……ここ最近の悪政はお前の仕業だな? いったいどういうつもりだ?」
「……」
景春が沈黙する。
俺は刀の峰で、彼の首筋を軽く叩いた。
「クソガキが。お前の首を刎ねてやってもいいんだぞ?」
「……」
「ちっ! 痛い目をみないと分からないみたいだな……」
俺は刀に力を込める。
そして、景春の首筋を薄く斬った。
これで彼も従順になるだろう。
俺はそう思ったのだが、想定外のことが起きた。
それは……
読み終わったら、ポイントを付けましょう!