俺は冒険者ギルドに頭領リオンを引き渡した。
そして、モニカやニムと共に、街外れにある秘密造船所に向かう。
このあたりまで来ると、人通りも少なめだ。
「なぁ、ニム。俺の演技はどうだっただろうか?」
「えっと……演技……ですか?」
「ああ」
俺はニムに尋ねる。
彼女は少し考えた後、答えてくれた。
「……とても自然でした。本物の駆け出し冒険者みたいだったと思います」
「そうか。それはよかった」
俺はホッとする。
オルフェスでは正体を隠すために『タケシ』という偽名まで使っていたからな。
ちゃんとした評価をもらえるかどうか不安だったが、とりあえず及第点は超えたらしい。
「モニカはどう思う?」
「うーん……」
今度は隣にいるモニカにも聞いてみる。
すると、彼女は少し困ったような表情を浮かべた。
「……ちょっと怖かったかも。なんか、いつもと違って……」
「怖い?」
「うん。何ていうか、有無を言わせぬ迫力があったっていうかさ……」
「あー……。そっちか……」
Dランク冒険者タケシとしての演技はともかく、男爵にしてBランク冒険者タカシとしての振る舞いはやや微妙だったらしい。
そっちは本来の俺なのだが……まぁ仕方ないか。
本来の俺と言っても、もしチートがなければギリギリDランク冒険者になれるかどうかってレベルだしな……。
チートを活用して男爵やBランク冒険者という上位者の肩書きを得られたのはもちろん嬉しいが、いまだにそれに相応しい振る舞いができているとは思えないのだ。
「でも、さっきの兄さん……カッコ良かったです。ああいう高圧的な兄さんも、たまには悪くないと思います」
「ありがとう。……ふふ」
「……えへ」
俺とニムが微笑み合う。
そんな俺たちを見て、モニカが嘆息する。
「イチャイチャしちゃって……。人に見られたら印象に残っちゃうよ?」
「うん? 何もおかしなところはないだろう? 俺はただ、マイシスターとスキンシップを取っているだけだ」
「ふぇへへ……。もっと頭をなでてください」
「もちろんだとも」
俺とニムはさらに距離を縮めていく。
本当は兄妹じゃなくて夫婦なのだが、今は兄妹という設定でオルフェスに来ているからな。
頭をナデナデするくらいなら問題あるまい。
「はいはい、そこまで!」
「むぐぅ……」
「あう……」
モニカが強引に割り込んでくる。
2人の間に腕を差し込み、無理やり引き剥がされてしまった。
「まったく……。2人とも、仲良すぎだよ」
「別に普通だろう? 俺たちは兄妹なんだからな」
「……それを言うなら、私とたっちゃんは夫婦なんだけど?」
モニカの言葉に、俺もニムも黙り込む。
……確かに、言われてみるとその通りだ。
俺とモニカは、元々が夫婦である。
そして、オルフェスへの潜入作戦においても同じように夫婦として来ている。
「ああ。俺とマイハニーは夫婦だな」
「……た、たっちゃん?」
「さぁ、俺の胸に飛び込んできてくれ!」
「ちょ……! ああ、もう!!」
俺は両手を広げてモニカを抱きしめようとする。
すると、彼女の方から飛び込んできた。
「……やっぱり、たっちゃんはズルい」
「なにが?」
「……なんでもない」
モニカが俺の胸に顔を埋める。
そして、そのままグリグリしてきた。
俺は彼女の背中を優しくさすりながら、愛おしそうに見つめる。
「……」
一方で、その様子を見ていたニムが羨ましそうな顔をしていた。
そこで俺は彼女に手を伸ばす。
「ほら、おいで。一緒にハグしよう」
「いいんですか?」
「もちろんだ」
「……! はい!!」
ニムが嬉しそうに抱きついてくる。
俺は彼女をギュッと抱きしめた。
「……なんだか、幸せです」
「ははは。俺も同じ気持ちだ」
「私も幸せだよ。たぶん、たっちゃんたちと一緒だからだね」
「そうだな」
俺たち3人はとても幸せな気分になった。
そうこうしている内に、秘密造船所が見えてくる。
「さぁ、着いたぞ」
俺は彼女たちを離すと、目の前の建物を見上げた。
「これがその場所かぁ……。思ってたより小さいんだね」
「ま、目立たないように地味に作られているからな」
モニカの感想はもっともだ。
とても、重要な船を王命で作っている造船所には見えない。
「よし。入ろう」
俺たちは秘密造船所の入り口に向かって、歩みを進めていくのだった。
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