【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1729話 死牙藩の六王獣

公開日時: 2025年4月26日(土) 12:10
文字数:1,760

「王のように君臨する六匹の妖獣……か」


 白夜湖。

 月明かりをたたえたその湖面は、まるで銀の鏡のように静謐で、そしてどこか異界じみていたらしい。

 その異様な湖を支配する六匹の妖獣――人々はそれらを畏れと共に“六王獣”と呼んだ。


 その名が示す通り、彼らはまさしく王の風格を帯びている。

 地を這うだけで大地がうねり、吼える声は天を震わせる。

 並の者なら、視界に捉えた瞬間に膝をついてしまう。

 それほどの風格があるらしい。

 流華や無月の見立てでは、桜花七侍でさえ単身では歯が立たない。

 要警戒だ。


 しかし逆に言えば、複数人が力を合わせれば、打ち倒すことは不可能ではないということでもある。

 それに、所詮は獣。

 こちらが冷静に、緻密に戦略を巡らせば、各個撃破も現実味を帯びる。

 六王獣を、過度に警戒する必要はない。

 それよりも警戒するべきは――


「死牙藩の豪傑め……。よくも、俺の流華を……!!」


 喉奥から絞り出された声には、怒りと悔恨、そして胸を焼くような焦燥が滲んでいた。

 己の拳を無意識に強く握りすぎて、指先が白く変色する。

 かすかに震える手の中には、抑えきれない激情の渦が蠢いていた。


 流華たちは、事前情報通り白夜湖東部で、例の謎めいた豪傑を発見したという。

 そいつは素性を隠すように全身を大ぶりの装束で包み、顔を隠す仮面はまるで鬼のように禍々しかったと。

 どこか人の理を外れた気配を漂わせ、その場に居合わせた者の誰もが、無言のうちに息を呑んだそうだ。


 さらに信じ難いのは、六王獣をまるで飼い犬のように従わせていたという事実だった。

 戯れではない、本物の従属。

 それは力による支配か、それとも何か異なる……言葉にできない何か。

 いずれにせよ、そんな存在がいること自体が異常だ。


 さらなる情報を得るため、流華は可能な限り接近した。

 だが、悲劇はあまりにもあっけなく訪れる。

 豪傑が鍛錬として素振りしていた戦槌。

 素振りの加減を間違えたのか、まるで山をも砕かんばかりの一撃が地を穿ち、爆ぜた岩片が辺りに飛び散る。

 その一つが、岩陰から様子を窺っていた流華を岩ごと貫き、彼は倒れ伏してしまったという。


 ……直接手を下したわけではない。

 あるいは、そもそも彼の存在に気づいていなかった可能性もある。

 だが、だからと言って許せる道理などない。

 たとえ無意識であれ、あの豪傑の一撃が流華を傷つけたのだ。

 俺の、かけがえのない弟分が。


「……ふー。落ち着け……。今、優先するべきは……」


 怒りで噛みしめた唇に、鉄の味が滲む。

 そんな俺の元に、城内に残っている主要な配下たちが集まってきた。

 その視線には、不安と期待が同居している。


 俺が動けば、確かに勝機は増す。

 クシナダだろうが天上人だろうが六王獣だろうが、最終的には対処できるはずだ。

 しかし、俺は一人。

 万能ではない。


 だからこそ、紅葉たちを前線に送り出した。

 戦況を見極めながら、柔軟に対応していくつもりだった。

 三箇所ともが危ういのは想定外。

 しかし、焦ってはならない。

 俺は深く息を吸い込み、感情を押し殺して、指示を飛ばす。


「翡翠湖には蒼天と巨魁が向かえ。樹影の教育を受けていたお前らなら、クシナダとやらの加護にも対応できるはずだ」


「「御意!」」


 鋭く応える二人の声には、わずかに緊張が滲む。

 蒼天と巨魁。

 忠義度に一抹の不安を残すが、今は選り好みしている場合ではない。

 裏切るには至らぬ程度の忠義はある。

 紅葉たちの負担を軽減するには十分な戦力だ。


「虚空島には早雲と金剛だ。的確な剣術と頑強な肉体で、弓矢による奇襲を防いでくれ。そのまま矢の範囲外まで撤収するのが理想だ」


「「承知!!」」


 早雲と金剛が、まるで稲妻に打たれたかのように声を揃えた。

 迷いなど微塵もなく、ただ使命の炎が瞳の奥に灯っている。


 早雲――桔梗の祖父。

 その白髪交じりの髪に隠れた鋭利な眼差しは、老いを寄せ付けぬ覚悟の刃を映していた。

 彼の存在そのものが、静かに研ぎ澄まされた長剣のようだった。

 かつては戦場にその名を轟かせた伝説の剣客。

 その名声が色褪せることなく、今も背中に迫るような威圧感を放つ。


 隣に立つ金剛は、それとは対照的な肉体の塊だった。

 鍛え抜かれた身体は岩のように屈強で、ただそこにいるだけで周囲の空気が引き締まる。

 巨漢だが、鈍重さは感じさせない。

 むしろ、狩りの瞬間を待つ猛獣のような静けさと緊張感があった。

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