俺はリオンの治療に際し、バランスを崩してベッドに倒れ込んでしまった。
半裸の男とベッドイン――それは嫌な出来事だが、本来ならただ嫌なだけである。
しかし、今回は厄介そうな者に目撃されてしまった。
魔導工房の少女である。
「あ、あの……。お邪魔してすみませんっ……! でも、私にも見せてくださいっ!!」
少女は俺とリオンの絡みを食い入るように見つめている。
どうやら俺とリオンが男同士で愛し合っていると勘違いしているようだ。
「いや、誤解なんですが……」
「隠すことはありませんっ! 2人ともすごく素敵ですよ!! はぁ……。こんな光景を間近で見ることができるとは……!!」
……どうしよう。
全然話を聞いてくれないぞ……。
いや、それよりも問題なのは……。
「なぁ、マイシスター。彼女はどうしてここに?」
「さ、さっきも言いましたけど……。隣の魔導工房の人が、挨拶に来るって……」
「ええっと……。確かに、言われてみればそんな話もあった気がするな」
俺が浮気疑惑に嫉妬の炎を燃やしている時、ニムがそんな話をチラッとしていたような……。
「は、はい。それで、わたしが宿の1階まで下りて、出迎えていたんです」
「そうか……」
事情はわかった。
だが、根本的な疑問が残っている。
俺はベッドから下り、魔導工房の少女に視線を向ける。
「あなたは、魔導工房で魔道具を作っている方でしょう? 忙しいのでは? どうして、わざわざ俺なんかの部屋を訪ねてきたのです?」
「あなたは、ダダダ団と戦ってくれたんですよね? それも、幹部の人と……。それがきっかけで、ダダダ団の崩壊に繋がったと聞いています。だから、その、お礼を言いたくてっ!」
「なるほど……」
Dランク冒険者タケシの話だな。
確かに俺はダダダ団の幹部ヨゼフと戦った。
それがきっかけで、『三日月の舞』が本格的に動き出した。
さらには謎の勢力『ダークガーデン』までもが参戦し、ダダダ団の崩壊に繋がったわけだな。
(ダークガーデンの首領は俺だが、そこまではバレていないようだな……)
あくまで、今回の件の始まりを作ったDランク冒険者タケシに対して、感謝の言葉を伝えに来たということらしい。
「でも、それなら別に俺の部屋に来なくても良かったんじゃないですか? もっと後でもいいですし、冒険者ギルド経由でも……」
「そ、その……。直接お礼を言いたかったんですっ! それに、他にも色々な事情があって……」
「色々とは?」
「え、ええっとですね……。実は私、これでも魔道具の製作には自信があるんです。魔導技師ムウっていったら、このあたりじゃちょっとした有名人なんですよ?」
「ほう……」
この少女の名前は『ムウ』というらしい。
可愛らしい名前だな。
ま、魔道具の製作に長けていることは知っていたが……。
秘密造船所の所長ゴードンが依頼相手に選んだぐらいだし。
「それで、ちょっと納期が立て込んでいる重要案件がありまして……。ただでさえ遅れていたのに、ダダダ団の件がありましたから……。これからは泊まり込みで作業することになると思います。ドタバタし始める前に、関係者さんたちにお礼だけは言っておきたいと思いましてっ!」
なるほどな。
わざわざ律儀に足を運んできたというわけか。
「わかりました。そういうことでしたら、確かにお礼の言葉は受け取りましょう」
俺は立ち上がると、改めてムウと向き合う。
なかなかの美少女だ。
ダダダ団のアジトから救助されたばかりの翌日のためか、少しやつれている印象はあるが、それでも十分に可愛いと言える。
ゆっくりと静養してほしい。
いや、その前に隠密小型船の魔導回路部分の作業があるのか。
「大変そうですが、お仕事頑張ってください」
「いえ、仕事は好きでやっていることですからっ! 改めて、今回はありがとうございましたっ!」
ムウが深々と頭を下げてくる。
俺は何とも言えない気持ちになった。
彼女の泊まり込みの作業が始まったら、差し入れでも持っていくか……。
俺はそんなことを考えながら、魔導工房の少女ムウとの挨拶を終えた。
彼女が部屋から退出する。
さて。
次は……リオンをどこか適切なところに引き渡すことにするか。
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