俺はラーグの街に一時帰還した。
ミティ、アイリス、リーゼロッテ、レイン。
それにミカ、アイリーン、モコナと再会することができた。
彼女たちに異変はなく、領地にも大きな問題は発生していないらしい。
「タカシ様が来られたということは、いよいよ私たちも……ですか?」
「準備はできているよ! タカシ!」
「いや、実はそうじゃないんだ。転移魔法陣の確認のため、試運転をしただけだ。ミティやアイリスたちがここを離れるのは、数日後になるだろう」
俺はそう説明する。
別にすぐ連れて行ってもいい。
しかしその場合、できるだけ目立たないようにするため、秘密造船所から一歩も出てもらわないようにする必要があるだろう。
窮屈な思いをさせることになってしまう。
だから、彼女たちにはギリギリまでラーグに滞在してもらっておいた方がいい。
「なるほどですわ。それでしたら、今日のところはすぐに戻られますの?」
「いや、転移魔法のクールタイムがあるから、すぐに戻ることはできない」
俺はリーゼロッテにそう答える。
まぁ、無理やり発動できなくもないのだが……。
体や魔力回路に負担がかかるし、できれば十分なクールタイムを確保しておきたい。
「その時間で、他の面々の現状を確認しておきたいのだが……。レイン、他のみんなはどこにいるって?」
「そうですね……。マリア様とサリエ様でしたら、街の治療院にいらっしゃると思います」
「なにっ!? ち、治療院だと!? どこかケガをしたのか!?」
「い、いえ。ケガの治療ということではなく……。民への予防接種のためと聞いています」
「あー……。なるほど。予防接種か」
俺はホッと息を吐く。
てっきり大ケガでもしたかと思ったのだ。
しかし考えてみると、大ケガなわけないか。
マリアは強力な自己治癒能力を持つ。
サリエは治療魔法のエキスパートだ。
この2人なら、治療院に行くまでもなく自分たちで治療することができるだろう。
治療される側ではなく、治療する側として治療院にいる方が自然だ。
「何の予防接種だったかな?」
「確か、魔熱病の予防接種だったと聞いています」
「魔熱病か……」
俺はそう呟く。
魔熱病とは、魔力が悪性に変質して体調を崩す病だ。
日本で言えば、インフルエンザみたいなものだな。
この世界には治療魔法があるので、金さえあれば大事には至らない。
ラーグに限って言えば、サリエ、俺、アイリス、マリア、リーゼロッテなどという治療魔法使いがいるわけだし、魔熱病はさしたる脅威ではない。
とはいえ、俺たちも常にラーグにいるわけではない。
ちょうどこれから、ヤマト連邦に潜入しておくわけだしな。
万が一の事態に備えておくのは良い判断だろう。
「では、せっかくだし治療院を視察させてもらうか」
「よろしいのですか? お館様が顔をお出しになると、騒ぎになると思いますけど……」
治療院は、ケガや病気の治療のために設けられた施設だ。
出資者は領主である俺。
そして、サリエを中心にいろいろな者が手伝っている。
町民から一般職員も雇用した。
第七夫人のサリエでさえ、最初の頃は顔を出す度にちょっとした騒ぎになっていた。
重傷者以外は一般雇用の職員に対応させるようになって、ようやく落ち着いたところだと聞いている。
「大丈夫だ、レイン。俺は変装していくことにする。遠目で、マリアとサリエの様子だけ確認してくるよ」
「それでしたら、問題ないと思います。必要でしたら、私も同行しますが……」
「いや、大丈夫だ。それにレインもまだ仕事が残っているだろう? 出発に向けた準備もあるはずだ。俺の世話は構わないから、自分の用事を優先してくれ」
「わかりました。では、任務に向けて万全の準備をしておきます」
レインはそう言って、一礼する。
ミティ、アイリス、リーゼロッテも付いてくる様子を見せたが、丁重に断っておいた。
自分が治める領都をお忍びで移動するだけだし、危険もない。
あまりぞろぞろと大人数で治療院を訪れると、予防接種の邪魔になってしまうだろうからな。
マリアやサリエの元気さえ確認できれば、それでいい。
「じゃ、行ってくる」
「はい。お気をつけて、タカシ様」
「分かってると思うけど、治療院で働く娘に手を出しちゃダメだよ?」
「お土産は……街角のクッキーをお願いしますわ」
ミティ、アイリス、リーゼロッテが見送ってくれる。
そして、俺はちょっとした変装をして、屋敷を後にしたのだった。
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