アヴァロン迷宮の5階層に戻ってきた。
途中でこちらに向かってくるトミーたちと合流するかと思ったが、今のところそうはなっていない。
氷化状態の解除に手こずっているのだろうか。
「雨が上がって、また暑い環境に戻っているな」
「そうですね。天井が一部崩落している分、以前よりはマシなようですが……」
俺の言葉にミティがそう同意する。
アヴァロン迷宮の5階層は暑く、さながら火口付近を移動しているかのような感覚があった。
今は多少マシになっている。
俺たちは5階層を戻っていく。
ピクピク。
モニカの耳が動く。
「……むっ!? この先から、話し声が聞こえるよ」
「おお、誰の声だ?」
「ええと……。ティーナちゃんに、トミーさん。それと、ベアトリクス第三王女殿下や、ソーマ騎士爵も……」
「本当か。みんな無事なようでよかった」
『永久氷化』は殺傷能力の低い魔法だ。
しかし、見た目は派手である。
なにせ、人を氷像に変えるわけだからな。
どうしても、多少の不安は残っていた。
「くんくん……。こっちのようです」
ニムがそう言う。
彼女とモニカの先導のもと、俺たちは歩みを進めていく。
行きはあまり意識していなかったが、よく見ると横道がいくつかある。
なかなか入り組んでいるようだ。
「ふむ……。このような場所があったとはな。気づかなかった」
「その通りですね。行きは、ファイアードラゴンの討伐に向けて急いでいましたから」
リールバッハとリカルロイゼがそう言う。
俺たちはさらに歩みを進めていく。
そして、何やらにぎやかな声が聞こえてきた。
「くそお! 目の前に、金銀財宝があるってのによ……」
トミーの悔しそうな声だ。
「ふん。奥に格納されているあの剣や魔道具も気になる。手に入れれば、我がサザリアナ王国にとって有益だろう」
ベアトリクス第三王女の声だ。
通路の奥にある部屋から聞こえている。
俺は部屋の中を覗き込む。
中はかなり広い。
何十人もの冒険者たちがたむろしている。
そして部屋の奥には、金銀財宝、それに剣や魔道具がたくさん並べられている。
しかし、その手前には結界のようなものがはられている。
結界を突破しない限り、あの金銀財宝を得ることはできないというわけか。
「モフモフはいないねえ。僕はただのお宝には興味ないかな」
「ふん。財宝にもモフモフとやらにも、俺は興味ない。俺の『支配』を活かすには、有能な配下がいればそれでいい」
『ビーストマスター』アルカと『支配者』ウィリアムがそう言う。
「ふっ。概ね同感だ。私には、愛する美しい妻がいればそれでいい……」
「もう……。でも、私はあのアクセサリーが欲しいな、なんて」
『聖騎士』シュタイン=ソーマの言葉を受けて、彼の第一夫人であるミサがそう言う。
「よし。私に任せ給え」
シュタインがさっそうと部屋の奥に向かう。
宝を取りにいったのだろう。
それにしても、他の者たちはなぜジッとしているんだ?
……ああ、あの結界のせいか。
俺たちは部屋の中に入り、冒険者の集団に近づいていく。
マクセル、ソフィア、イリア、ジョージ。
見知った顔がいくつもあるが、その中の1人に話しかける。
「よう、マクセル。無事だったか」
「タカシ君か。君こそ、大活躍だったそうじゃないか。ファイアードラゴンを手懐け、ラスターレイン伯爵家の方々を浄化したとか」
『雷竜拳』マクセルがそう言う。
内容は確かにその通りだがーー。
「なぜそのことを?」
俺たちミリオンズは、その件が終わってからすぐにこちらに向かってきた。
それほどの時間は経過していない。
マクセルが知るタイミングはなかったはずだ。
「ピピッ。当機がマスターのご活躍を確認し、この者たちに報告しました」
「タカシの旦那なら、間違いなくやってくれると信じてやしたぜ!」
アンドロイドのティーナと、第六隊に同行していたトミーがそう答える。
彼女たちも無事だったか。
「うん。途中まではタカシ君たちのところに向かおうとしていたんだけどね。脇道にこの宝物庫を見つけて、みんなの気が逸れたんだ」
「ピピッ。マスターがこちらに向かわれているのも確認していましたので、当機はそれを強く止めませんでした」
なるほど。
俺たちミリオンズがラスターレイン伯爵家と戦っている頃には、彼らはこちらへ向かってきていた。
戦いが終わったぐらいのタイミングでちょうどこの宝物庫を見つけ、寄り道をした感じか。
それなら、薄情というほどでもない。
「事情はわかった。確かに、魅力的な宝物庫だな。金銀財宝、それに剣や魔道具がたくさんある」
「ああ。ストラスやセリナも目の色を変えているよ」
マクセルが少し離れたところにいるストラスとセリナに視線を向ける。
俺もつられてそちらを見る。
「ストラス君。早くあの指輪を取ってくるなの」
「ムチャ言うな! 今までに挑戦したやつらの惨状を見ていただろうが!」
セリナの言葉を受けて、ストラスがそう言う。
惨状?
やはり、あの結界をムリに突破しようとすると痛い目に合うのか。
「そんなの関係ないの。ストラス君ならできるはずなの」
でもそんなの関係ねえ!
でもそんなの関係ねえ!
セリナがストラスの背中を押す。
けしかけるセリナと、それに抵抗するストラス。
状況は拮抗している。
俺はそんな彼らを見てから、マクセルに視線を戻す。
「あれだけのお宝があれば、気が急くのも仕方ない。しかし、あの結界はそれほど厄介なのか?」
「ああ。説明するよりも、見たほうが早いだろうね。……ほら、あれを」
マクセルがシュタインを指差す。
シュタインはちょうど、結界に差し掛かろうとしているところである。
厄介そうな結界だが、『聖騎士』の二つ名を持つ彼なら何とかしてくれるかもしれない。
期待して見守ることにしよう。
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