俺はトイレの個室に突撃した。
まるで痴漢のような行為だが、もちろんそういう意図はない。
単純に、中で大変な目にあっているであろうリッカを助けたいと思っただけだ。
「こ、これは一体……?」
俺が見たものは衝撃的な光景だった。
便座の上で腰を抜かしたように座り込みながら、声を上げるリッカの姿だ。
どうやら、ウォシュレット用の水流がいい感じに股間を刺激してしまっていたらしい。
しかも、ちょうど俺が入ったタイミングでその水流の勢いが増した。
彼女は大きな悲鳴を上げつつ、体を痙攣させ続けている。
その姿はとても艶めかしく魅力的だ。
しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「おい! 大丈夫か!? 今、どんな状態なんだ!?」
なんとなくは分かっている。
ウォシュレット用の水流の故障だったのだろう。
その狙い目が良くも悪くも的確で、性的な経験の浅いリッカが翻弄されたのだと思われる。
「うぅっ……!」
顔を真っ赤にして涙目になりながら、こちらを睨みつけてくるリッカ。
よほど恥ずかしかったのか。
いつもの強気な態度は完全に鳴りを潜めてしまっている。
「とにかく服を着ろ。な? もう大丈夫だから」
「……わ、分かったのです」
俺の言葉に従い、いそいそと服を着ていくリッカ。
そんな彼女を視界に入れながら、俺は話し掛ける。
「なぁ、一つ気になったのだが」
「何です……?」
「どうして全裸だったんだ?」
そう、そこが疑問だったのだ。
なぜ服を脱ぐ必要があったのか……と。
トイレで致すだけなら、小であれ大であれ、ズボンやパンツだけ脱げば事足りるだろうに……。
「そ、そんなの決まっているじゃないですか! トイレで出すためです!!」
顔を真っ赤にしながら反論してくるリッカ。
服を着た今、少しばかり強気が戻ってきたようだ。
その反応を見るに、何らかの嘘や誤魔化しはなさそうである。
つまり本当に用を足すために脱いでいたということになる。
「なんで全部脱ぐ必要があるんだ? こう、必要な箇所だけズラせば済む話じゃないのか?」
「そんなことできるわけないじゃねーですか!」
「いや、だって、トイレってそういうものだろ?」
「違うです! そんな使い方するやつなんてほとんどいないのですよ!! 普通はこうするのです!!」
リッカはそう強弁する。
少なくとも、彼女は本気で信じているようだ。
トイレで致すときは、服を全部脱ぐものだと……。
(うーむ……。俺の常識がおかしいのか? まぁ、小さい子どもなら全部脱ぐのも分かるけど)
リッカの外見年齢は10歳程度だ。
しかし、中身はとっくに成人している。
年齢的には大人であるはずのリッカがそれをするのは違和感がある。
それとも、この世界だとそれが普通なのだろうか……?
(いや、前にクリスティと『トイレでバッタリ事件』を起こした際に見た感じでは、普通にパンツだけズラしていたよな……)
エロ男爵である俺でも、さすがに妻や配下の女性たちのトイレを覗き見る趣味はない。
いや、正確に言えばそういう趣味もなくはないのだが、それを実行するとドン引きされそうなので我慢している。
俺がこの世界に転移してからそろそろ3年が経過する。
しかし、未だにこの世界のトイレ事情には詳しくないというのが実情だ。
「なぁ、ミティ。ちょっと聞いてもいいか?」
「はい。なんでしょう?」
俺は傍に控えていたミティに質問を投げかける。
こういう時に頼りになる存在がいるというのは心強いものだ。
「一般的なトイレの使い方について教えてくれないか?」
「へ?」
「いや、リッカのように全裸になるのが一般的なのかと思ってさ」
「そんなわけないですよ!?」
なぜか強く否定されてしまった。
やはりこの世界でも一般的ではないようだ。
であれば、やはりリッカが異常であると結論付けざるを得ない。
(いや、待てよ?)
地球から転移してきた俺は、何か一風変わった風習を知る度に『この世界には変わった風習があるんだなぁ』と一括りにしてしまいがちだ。
しかし、それは適切ではない。
この世界の中にも、様々な国家が存在している。
サザリアナ王国、ハガ王国、ウェンティア王国、ヤマト連邦、ファルテ帝国、ミネア聖国などなど……。
それらの国々では独自の文化や風習があり、当然トイレの使用方法やマナーなども異なっているはずだ。
だから今回のケースも例外ではない可能性がある。
「ええっと、リッカ。お前って、どこの出身だっけ?」
「僕様ちゃんは、中央大陸のミネア聖国から来たですよ」
「ああ、なるほど……」
それで合点がいった。
聖ミリアリア統一教会の影響が強い地域では、そういった習慣が根付いているのかもしれない。
「タカシ? 変なことを考えてない?」
「いや、違うぞ? ミネア聖国に行けば全裸少女の放尿シーンが見れるかも――なんて考えていないからな?」
「思ってるじゃん! タカシは本当に変態なんだから!!」
「冗談だよ。半分くらいは」
「半分は本気ってこと!? 恐ろしいことを考えないでよ!!」
アイリスがポカポカと叩いてくる。
彼女はそのまま言葉を続けた。
「ボクはミネア聖国の出身じゃないけど……。行ったことはあるよ。そんな風習はなかったように思う」
「へぇ……。ならばやっぱり、リッカがお子ちゃまだったというだけの話か」
「誰がお子ちゃまです!!」
俺の言葉に憤慨するリッカ。
しかし事実なのだから仕方ないだろう。
「大丈夫さ。俺もトイレ練習に付き合ってやるから。ちゃんと服を脱がずにできるようになろうな?」
「うるさいです! 僕様ちゃんはこれでいいのです! 大人なのです!!」
プンスカ怒るリッカ。
俺は苦笑しながら、彼女をなだめるのだった。
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