俺が勾留されている『海神の大洞窟』に招かれざる客がやってきた。
人魚族の不良集団『海神の怒り』だ。
人族に対する偏見や嫌悪感に染まっている彼らは、俺をボコボコにする気満々だった。
そこに侍女リマが割って入り仲裁を試みるが、それで彼らが止まることはなかった。
「容赦しねぇと言ったはずだぜ? 人族の前に、お前を再起不能にしてやろうか? あぁん?」
男はリマの髪を掴み、強引に立たせる。
彼女は苦しそうに顔を歪めていた。
「あ、あなたたち……。こんなことをして、どうなるか分かっているのですか……?」
「おいおい、ちょっとしたおふざけだろ? そんなにムキになるなよ」
「そうそう! それによぉ……。人族がどんな目に遭おうが、別に構わねぇだろ?」
「今の王族や王宮務めの連中には誇りってものがねぇ。薄汚ぇ人族を庇うなんてよ」
リマが苦し気に言葉を絞り出すと、男たちが下卑た笑みを浮かべた。
言葉での説得も失敗だ。
彼らの心には、人族に対する侮蔑しか存在しない。
(仕方ない……)
これ以上、彼らに好き勝手やらせるわけにはいかないだろう。
俺は闘気を開放する。
魔道具『闘気封印の縄』が俺の闘気を抑制してくるが、強引に突破する。
ビリビリッ!!
パァン!!!
縄の一部が弾け飛び、俺の右手に自由が戻った。
「なっ!?」
突然の出来事に驚く男たち。
だが――俺はまだ動かない。
「一度だけチャンスをやる。大人しく帰れ」
俺は彼らにそう告げた。
リマに暴力を振るったことは許しがたいが、殺し合いをするつもりもない。
大人しく帰ってくれるのならば、それが一番良いだろう。
治療魔法を使えば、リマを癒やすことも可能だし……。
「なんだ? 人族のくせに偉そうな口をきくじゃねぇか?」
男が俺を睨みつける。
彼はリマを無造作に解放する。
そして、次の瞬間――俺の顔面に向かって拳を叩き込んできた。
ドンッ!!
俺の額に衝撃が走る。
「おら! どうだ!? 人族め!!」
男は高笑いをしていた。
だが――
(なんだ? この程度か……?)
俺は拍子抜けする思いだった。
彼らは自称『選りすぐりの不良軍団』とか言っていたが……。
この程度の実力で、本当に戦えるのか?
これなら、先日戦った『ダダダ団』の方が強いだろう。
(俺が強くなりすぎたのも原因か……?)
俺はチートスキル『ステータス操作』やミッション報酬により、成長を続けている。
才能に恵まれた者であっても、チートスキルがなければその成長は途中で鈍化してしまうだろうが……。
俺の場合、その心配がない。
順調に成長を続けていた。
「ナイト様! 大丈夫ですか!?」
リマが心配そうに叫んだ。
彼女は、俺の身を案じてくれているらしい。
まぁ、モロに顔面パンチを受けてしまったので、普通は大ダメージ必至だもんな。
「ああ、大丈夫だ」
俺は短く答えた。
「へ? な、なんで……?」
男も俺の態度が信じられないのだろう。
彼は困惑しているようだった。
「お前たちとは戦うだけ無駄だ」
俺はそう告げる。
あまりにも実力差があるので、勝負にすらならない。
それに、ミッション『10人以上の人魚族に加護(微)を付与せよ』の件もある。
人魚族と致命的な敵対関係になることは避けたかった。
「この……人族風情がぁ!!」
男が激昂した。
しかし、俺は動じない。
彼は仲間たちと共に殴りかかってくるが――
「かあぁあああっ!!」
俺の闘気によって弾き飛ばされた。
「なっ!?」
「ぐへっ!!」
「い、いったい何が……!?」
驚愕に目を見開く男たち。
そんな彼らに向かって、俺は告げる。
「もうやめろ。死にたいのか?」
「ひ、ひいぃ!?」
俺の言葉を受けて、男たちが引きつった声をあげた。
先ほどまでの勢いは完全に消え失せている。
(ふむ……)
どうやら、完全に怯えさせてしまったようだ。
少し怖がらせ過ぎたかもしれないな……。
俺は男たちに微笑みかける。
「今日はここまでにしよう。お互いに、これ以上争うのは無益だろう?」
「す、すみませんでしたぁ!!」
「誰だよ! 人族が弱いって言った奴は!!」
「闘気だけで俺たちを吹き飛ばすなんて、あり得ねぇ!」
「やっぱりジャイアントクラーケンと渡り合ったってのは本当なんだ!!」
「大ボス! 助けてくれぇ!!」
男たちは一目散に逃げていく。
洞窟の外へと出て行った。
そんな中、リーダー格の男が足を止めて振り返る。
「覚えてやがれ、人族! 水中でなら、こうはいかなかった! この恨み、絶対に晴らしてやるからな!!」
そう叫んできた。
俺は彼の言葉に――
「ああ、いつでも待っているぞ」
と笑顔で応じたのだった。
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