ビュオオオォッ!
ゴオオオオ……!!
「むっ……! お、おおおおぉっ!?」
落下しながら、俺は思わず叫ぶ。
無事に桜花藩の上空へ転移できたらしい。
全身に凄まじい風圧を感じる。
このままでは地面に叩きつけられてしまうだろう。
「【レビテーション】」
俺は重力魔法を発動し、落下スピードを遅める。
同時に、周囲の状況を確認した。
「あれは……」
俺が転移したのは、山岳部の上空だったようだ。
遠くには平野部が見え、いくつかの街が見える。
その最も大きな街の中心部には、立派な城があった。
「あれが桜花城かな?」
洋風の城ではなく、和風の城だ。
俺の記憶の奥底にあるサザリアナ王国王都にあった城とはまた違った方向性だな。
実に風情がある。
「んん? おっと……?」
俺は空中でバランスを崩す。
重力魔法の制御が不安定だ。
記憶があやふやとはいえ、俺の魔法練度であればもっと飛び続けることも可能なはずだが……。
空気中の魔素が薄いのか?
あるいは、特殊な結界術とかで妨害されているのか?
「これは……無理に飛ぼうとしない方がよさそうだな」
俺は山岳部に降り立つ。
桜花城までは遠いが、仕方ないだろう。
幸い、俺にはチートで得た強靭な肉体がある。
歩くのは苦にならない。
この山岳部から平野に下りて、そこからいくつかの街を経由し、城下町に向かおう。
そこで情報収集をして、桜花城を攻め落とす感じだな。
「さて……」
俺は改めて周囲を見渡す。
ここは山の山頂寄りだ。
周囲には木々が生い茂っている。
「ん?」
俺はそこで、奇妙な気配を察知する。
どうやら、何者かが山の傾斜部に身を潜めているようだ。
「そこか」
俺は小石を拾って、気配のする方向へ投げる。
すると、その何者かは勢いよく斜面を転がり落ちてきた。
「グギャッ!」
「なんだ、ゴブリンか」
俺はホッとする。
もう何度も倒したことのある魔物だ。
「ギギィッ!」
ゴブリンは俺に飛びかかってくる。
俺はその攻撃を躱し、カウンターの拳を叩きつけた。
「グギャッ!」
ドゴオオォ!!
ゴブリンは吹き飛び、木に叩きつけられる。
「ふーむ……。まさかとは思うが、この土地ならではの亜人とかではないよな?」
俺はゴブリンを見下ろしながら質問する。
この世界には、オークやハーピィといった種族がいる。
見方によっては魔物とも捉えられるが、言語による意思疎通ができる立派な亜人である。
ならば、ゴブリンはどうか?
サザリアナ王国周辺のゴブリンは魔物扱いされていたが……。
ヤマト連邦のゴブリンは扱いが違う可能性もある。
安易な討伐は避けた方がいいかと思い、俺はゴブリンの観察を続ける。
だが、俺の質問に対する返答はなかった。
「ギギィッ!」
「おっと……」
復活したゴブリンが再び飛びかかってくる。
今度は少し距離を取っていたので、俺は余裕をもって回避する。
「まぁいいか。この様子では、ヤマト連邦でもゴブリンは魔物扱いだろう。肩慣らしに駆除しておこう」
「ギギャッ!」
ゴブリンが棍棒を振り下ろす。
俺はその棍棒をすれ違うように躱し、刀で切りつけた。
「ギギャッ!?」
ゴブリンが悲鳴を上げ、その場に倒れる。
俺はその首を刎ね飛ばした。
「よし……。こんなところか」
俺は刀を鞘にしまい、一息つく。
剣と刀は違う武器だが、共通項も多い。
俺には剣術スキルがあるし、この程度の魔物なら楽に倒せるな。
「さて、まずは山を下りるか。……いや、その前に山村でも探してみるかな」
俺はそんなことをつぶやきながら、山を歩いていくのだった。
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