【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1666話 二人歩いた軌跡

公開日時: 2025年2月22日(土) 12:10
文字数:1,122

 俺は紅葉とのんびりした昼食を堪能した。

 山頂の風は穏やかで、澄んだ空気が心地よい。

 遠くの稜線が霞み、雲の切れ間から差し込む光が地面に模様を描いている。

 まるで風が時間の流れを緩めているかのような錯覚を覚えた。

 温かい食事の余韻が体の芯まで染み渡る。

 食事を終え、のんびりと景色を眺めていると、腹の満足感が心まで満たしていくようだった。


「さて、腹ごなしも済んだし、そろそろ下山するか」


 俺は伸びをしながら言った。

 肩甲骨が心地よく伸び、肺いっぱいに澄んだ空気を吸い込む。

 昼下がりの陽光が穏やかに照らし、岩肌に映る影がわずかに伸び始めていた。


「はい!」


 紅葉は元気よく答え、さっと荷物をまとめ始める。

 その動きは手際が良く、無駄がない。

 それでも、どこか名残惜しそうに辺りを見回しているのが分かった。


 俺は立ち上がり、紅葉に手を差し伸べた。

 彼女は一瞬驚いたように目を瞬かせたが、すぐに微笑み、そっと俺の手を取る。

 その指先は細くしなやかで、掌には確かな温もりが宿っていた。

 触れた瞬間、微かな緊張が伝わる。

 紅葉の頬がわずかに朱に染まり、風に揺れる髪が陽光を受けて輝いていた。


「よし、行くぞ!」


「はい! ……あ、待ってください」


 紅葉がふと俺の服の裾を引いた。

 その仕草はどこか頼りなげで、意を決したようにも見えた。


「ん? どうした?」


 彼女は少し戸惑ったように目を伏せ、指先をもじもじと動かしている。

 まるで何か言いたいのに言い出せないかのようだった。

 風が木々を揺らし、鳥の囀りが遠くで響く。

 俺は紅葉の横顔を見つめた。


「あの……。その、少しお願いがありまして……」


 声は小さく、けれどどこか真剣だった。


「ん? なんだ?」


 俺は彼女の表情をうかがう。

 紅葉の睫毛が震え、やがて決意したように顔を上げた。

 その頬は赤く染まり、瞳には真っ直ぐな光が宿っている。


「あの……、その……。この大岩に、私たちの軌跡を残していきませんか?」


「軌跡? ……あぁ、そういうことか」


 俺はすぐに理解した。

 紅葉は俺たちの思い出を何か形に残したいのだろう。

 この広大な景色の中で、俺たちが確かにここにいた証を。


 この旅の本来の目的は違う。

 俺たちは深詠藩を武力で制圧し、支配するために来た。

 のんびりとしたピクニック気分でいる場合ではない。


 しかし、それはそれとして、道中を楽しむ余裕があるのも悪くない。


「わかった。そうしよう」


 俺はアイテムボックスに手を伸ばし、適当な鉄刀を取り出した。

 鞘から引き抜くと、刃が日差しを反射し、きらりと光った。

 俺はその鋭い刃で、軽く大岩を削る。

 なかなかに頑丈な大岩だったが、俺の膨大な魔力や闘気を刀に纏わせればどうということはない。


 ――『高志参上!!』


 大岩に刻まれた文字は、陽を受けて立派に輝いて見えた。

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