食事会を楽しみながら、ハイブリッジ家の配下を紹介しているところだ。
執事やメイド、警備兵たちの紹介を終えた。
「さあ、続きましてはハイブリッジ騎士爵家御用達の冒険者の紹介です! まずは、Cランクパーティの雪月花!」
雪、月、花の3人が前に出る。
「「おお!!」」
「あの若さでCランクか!」
「聞いた話では、ラスターレイン伯爵領にあるアヴァロン迷宮の攻略にも貢献したとか」
「女性のみのパーティでCランクとは珍しい」
会場内からそんな声が漏れる。
この世界には闘気や魔力が存在するため、地球に比べて男女の性差は小さい。
だが、わざわざ危険な冒険者になる女性はさほど多くないのだ。
「3人共、タイプは違えど見目麗しい女性たちですね」
「ハイブリッジ騎士爵は、ああいう女性が好みなのか」
「あの年齢でCランクなのだ。相当に鍛え抜かれた体をしているに違いない」
「噂では、既にハイブリッジ騎士爵の寝室に出入りを許されているとか……」
「つまり、既に関係を持っているということか!?」
「なんと!?」
「羨ましい……!」
「くそっ! 私もハイブリッジ騎士爵になりたいものだ……」
参加者たちから嫉妬の声が上がる。
微妙に尾ひれが付いているな。
雪月花の内、俺の寝室に来たことがあるのは花だけだ。
しかも、一線は越えていない。
土壇場で彼女が心変わりしたからだ。
それにしても、こんな噂がどこから流れてしまったのだろう?
「続きまして、同じくCランク冒険者のトミー! そしてその仲間たちです!」
ネリーの紹介に伴い、引き締まった体の男たちが前に出る。
戦闘能力や経験という点で、安定して高いレベルでまとまっているのが彼らだ。
純粋な戦闘能力だけならキリヤやクリスティが上だが、彼らは冒険者としては経験不足だからな。
会場からトミーたちに拍手が送られる。
「さらに、将来有望なDランクパーティ『紅蓮の刃』です!」
次に出てきたのは、かつて俺に絡んできたアランたちだ。
その表情は緊張気味である。
「ふむ? Dランク冒険者か……」
「悪くはない実力を持つのだろうが……」
「この場でわざわざ紹介するほどでもないような気がするな」
「確かにそうだ」
「しかし、ハイブリッジ騎士爵は、Dランクとはいえ彼らを評価しているようだぞ?」
「何か事情があるのだろうか?」
参加者たちが首を傾げる。
冒険者ランクはEからSの6つある。
Eランクは駆け出しで、誰から見ても半人前と言える。
Cランクは上から数えれば4つ目ではあるが、構成分布がピラミッド型になっている関係上、Cランクでも上級扱いされるのが一般的だ。
ではDランクはと言えば、一戦力としては明確に計算できるレベルではあるが、エースには程遠いといった感じである。
彼らが紹介を疑問に思うのも無理はない。
そんな微妙な空気の中、アランが紅の剣を高々と掲げた。
「我が名はアラン! ハイブリッジ騎士爵家の名の下に! ここに集いし勇敢なる戦士たちとともに! 必ずやサザリアナ王国に貢献致しましょう!!」
よく通る声で叫ぶように宣言する。
かつてはただのチンピラだったのが嘘みたいである。
「威勢だけはいいようだ」
「元気がある若者は見ていて微笑ましい」
「確かに、将来性には期待できるかもしれぬな」
参加者たちの空気が少しだけ変わった。
さらに、その中の1人が異変に気づく。
「いや待て……。あの紅の剣は、まさか……」
「……む。そのまさかのようだ。あれは、ハイブリッジ騎士爵の二つ名『紅剣ドレッドルート』と同じ作りのものだ」
「おお!? なんと!?」
「ハイブリッジ騎士爵の第一夫人ミティ殿は、鍛冶の達人だと聞いたことがあるが……」
「なるほど、そういうことか」
「自身の二つ名になった魔剣と同じ物を与えるとは、それだけ期待しているということだな」
参加者たちの空気が変わった。
アランに対し、期待を寄せるような視線を送っている。
「また、ここから西部に広がる森の奥地には、新たに開発されている鉱山があります! 鉱夫たちが日々汗を流しています! 本日は代表して、3名の顔をお見せ致します! 順にブギー、ジョー、ケフィでございます!」
ネリーの紹介に合わせて、屈強な大男が1人、やや痩せているが引き締まった体をしている男が1人、そして背丈が小さめの少女が1人前に出る。
「あれが悪名高きブギー盗掘団の……」
「王都から何度か捕縛隊を出されたが、失敗に終わってきたと……」
「この街が主体となった捕縛作戦は、ハイブリッジ騎士爵が叙爵されることになったきっかけだな」
「犯罪者だろう? いくら開発のためとはいえ、信用していいのか?」
「しかし、実際にハイブリッジ騎士爵の領地は発展している」
参加者たちからそんな声が上がる。
俺は悠然と前に出て、3人の前に立つ。
「第一採掘場統括ブギー。御身の前に」
「第二採掘場統括ジョー。御身の前に」
「第三採掘場統括ケフィ。御身の前に」
彼らは片膝を付き頭を垂れた。
「み、見ろ……。いかにも荒くれ者の男が、ハイブリッジ騎士爵には従っている」
「奴らが捕らえられたのは、彼の活躍があったからと聞いているが……」
「普通なら逆恨みして従うはずがない。ハイブリッジ騎士爵はうまくやっているようだな」
確かにそうかもしれない。
俺は加護付与スキルの副次的な恩恵により、各人の好むことや嫌がることをある程度推測できる。
よほど相性が悪い者でない限り、離反されるようなことはないだろう。
「面を上げよ」
俺の言葉に従い、3人は顔を上げる。
「まずは、鉱山の開発に尽力してくれていることを感謝しよう。これからも頼む」
「「「はっ!」」」
「それから、貴様らの働きは聞いている。追って褒美を授けよう。楽しみにしていろ」
「「「ありがとうございます!」」」
「うむ」
俺は鷹揚に肯いてみせる。
これでハイブリッジ家の配下の紹介は終わりが見えてきた。
後数人だけ紹介して、披露会を終えることにしよう。
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