「さて、夜の行動だ。屋根伝いに桜花城の方面へ向かうか」
俺は1人呟く。
日中とは服装が違うし、俺は『気配隠匿』のスキルも持っている。
そもそも、夜のため人通りが少ない。
普通に歩いても大きな問題にはならないだろうが、目立たないに越したことはない。
「よっと」
俺の姿が、夜の街へ溶け込むようにして消えていく。
いや、実際に消えているわけではないが……。
そこらの一般人に存在を察知されることはないだろう。
隠密に行動するには最高のスキルだな。
「…………」
俺は静かに屋根の上を走る。
日中の活動時よりも、さらに隠密性を意識して動いている。
下手に存在を気取られるわけにはいかない。
まぁ、『気配隠匿』を見破るような相手がいたなら、殺せばいいだけだが。
「おい! どこに行くつもりだ、てめぇ!!」
「っ!?」
静かな夜の街に響く、大きな声。
一瞬、俺が見つかったのかと思ったが……
「なんだ、酔っぱらいか……」
俺は屋根の上で小さく息を吐く。
スキル『気配隠匿』を看破したわけではないようだ。
大声を出したらしき男の近くには、他の男たちが集まってきている。
喧嘩か?
いや、あれは……
「や、やめて……」
「げはははは! いいじゃねぇかよ!!」
酔っぱらい風の男たちが、嫌がる女性を組み伏せている。
どうやら、強姦の現場のようだ。
さっきの『どこに行くつもりだ、てめぇ』というのは、女性に向けての言葉だったんだな。
「ま、俺とは関係ないな。先を急ぐか……」
俺は女性を見捨て、先へ向かうことにする。
彼女がどうなろうが、どうでもいい話だ。
「……ん? いや、待てよ……?」
俺の中で、1つのアイデアが思い浮かぶ。
別に、気が変わって女性を助けるつもりになったわけではない。
「【闇の螺旋】」
俺は女性を襲っている男たちに手のひらを向け、闇魔法を発動する。
これは攻撃魔法ではない。
対象から闇を吸収する魔法だ。
男たちから瘴気が出て、螺旋状になって俺へと向かってくる。
「な、なんだ!? うっ、頭が……」
「俺たち……どうしてこんなことを……!?」
「す、すまねぇ! 悪酔いしちまったみたいだ……!!」
一瞬のうちに、女性たちを襲っていた男たちの人格が変わった。
中には、自分の行いに戸惑いを感じている者すらいる。
劇的な変化だな。
闇の瘴気は素晴らしいものだ。
欲望に忠実になり、行動の思い切りが良くなる。
闇を俺に吸収されてしまった今、酔っぱらいたちの人格は弱々しいものになった。
あれでは、何かしらの欲望があっても踏ん切れずに終わってしまうだろう。
「ふ、ふふふっ……。こいつぁいい……! 闇がこんなに素晴らしいものだったとは……。今までの俺はどうかしてたぜ」
男たちから吸収した闇を、俺は体内に取り込む。
桜花城までの道中で、思わぬ拾い物をしたな。
酔っぱらいと女の間には、まだひと悶着あるかもしれないが……。
俺には何の関係もない話だ。
「さぁ、桜花城が見えてきた。今の俺なら、いつもとは違ったアプローチができそうな気がするぜ。くくく……」
俺はニヤリと笑う。
そして、夜の街を静かに駆けていくのだった。
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