俺たち変態5人組が風魔法の鍛錬を切り上げようとしたとき、女性の悲鳴が聞こえてきた。
「なんだ!?」
その声は、かなり近い場所から発せられた。
「まさか、見つかったか!? いかん、みんな伏せろっ!」
俺は咄嵯の判断で4人を屋根に押し倒す。
角度的に考えて、建物の屋根に立っていれば見つかるが、伏せればその可能性はグッと低まる。
ここで見つかるわけにはいかない。
(明日の王都新聞の見出しを『全裸の男、王都を爆走!』にするわけにはいかない)
しかも、その正体が話題のハイブリッジ男爵とバレるとマズい。
俺の威厳が丸潰れである。
いや、別に威厳になんて本来はどうでもいいのだが、加護付与の件があるからな。
民衆に悪感情を持たれることは避けたい。
俺は悲鳴の元を慎重に探す。
すると、裏通りの方にその女性の気配があった。
俺は聴覚強化のスキルによって、なんとかその会話を聞き取る。
「へへへ。そんなに悲鳴を上げなくてもいいじゃねぇか」
「俺たちと一晩楽しんでくれりゃあいいんだよ」
「大丈夫だって。朝まで可愛がってやるからさぁ」
「い、嫌ですっ! 放してくださいっ!」
複数の男たちの声と女性の声が聞こえる。
これはマズいな……。
女性が男複数に襲われているようだ。
(早く助けないと……)
だが、今の俺たちは全裸だ。
いくら急いでいるとはいえ、全裸で駆けつけるわけにはいかない。
ならば、ちゃんと服を着てから駆けつけるのが無難か?
しかし、その僅かな時間によって女性が害されるリスクもゼロではない。
(そうだ! 閃いたぞっ!!)
俺は妙案を思いつき、ミティや蓮華たちの方を向いたのだった。
*****
「い、嫌ぁ……」
「へへへ。可愛い子猫ちゃんだぜ」
「こいつは楽しめそうだな」
「ヒヒッ。いい声で鳴けよ?」
チンピラたちが女性に近づいていく。
元々、王都の治安は悪くない。
少し前にはタカシ=ハイブリッジ男爵によって複数の盗賊団が壊滅させられたので、治安はさらに良くなっている。
だがその反面、こうした小悪党が一時的に増えている側面もある。
「た、助けてぇ……」
「へへへ。誰も来ねえよ」
「大丈夫だ。すぐに気持ち良くなるからな」
チンピラたちが女性に襲いかかろうとした、その時だった。
「そこまでだっ! 悪党どもっ!」
男が颯爽と現れ、叫ぶ。
彼は少し離れたところにある木箱の上に立っている。
日本人が見れば、さながら特撮ヒーローの登場シーンのように思ったことだろう。
「ああっ? なんだテメェは――って、なんだその格好は!?」
「ふざけてんのかっ!?」
「舐めんじゃねぇぞっ!!」
チンピラたちは激昂する。
無理もない。
なぜなら彼らの目の前にいる男は、なんとも奇妙な姿だったからだ。
「ふふ。俺の名前はオパンツ戦隊・レッド仮面。お前たちのような悪い奴らは、俺が成敗してやろう!!」
男は頭部は赤いパンツで覆われていた。
それも、女性用のパンツである。
そして、それ以外はほとんど何も身に着けていない。
かろうじて、股間部のみが男用の赤いブーメランパンツで隠されている程度だ。
引き締まった筋肉質な身体を見せびらかすように堂々と立っている。
そんな彼が高々と名乗りを上げたのだ。
怒らない方がおかしいというものであろう。
「ふざけんなっ! 変態野郎が!!」
「ぶっ殺してやる!!」
「野郎ども! 出てきやがれっ!!」
リーダー格らしき男が怒鳴ると、近くの建物の中から何人もの男たちが現れた。
全員、それなりに体格が良く強そうだ。
中にはナイフを持っている者までいる。
「ふふ……。そうこなくてはな」
オパンツ戦隊・レッド仮面――タカシはニヤリと笑う。
「へへへ。変態1人にやり過ぎかもしれねぇが、得体の知れねぇ奴だから用心しないといけねぇ」
「覚悟しな、変態野郎。この人数差で勝てると思うなよ」
「ふむ……。ざっと20人といったところか。確かにこれは、少し厄介だな……」
レッド仮面はそう呟く。
彼の火魔法や剣術なら、全員を短時間で無力化することも可能だろう。
しかしその場合は、彼らは死に至る可能性が高い。
女性に乱暴しようとしたのは許しがたい行為ではあるが、即死刑というのもやり過ぎに思えた。
「仕方ない! みんな、来てくれ!! オパンツ戦隊、大集合だあぁっ!!!」
レッド仮面は天に向かって叫んだ。
その瞬間、空から巨石が降ってきた。
「な、何事だ!?」
「うわああぁぁぁぁぁぁっ!?」
ドゴーン!
辺りに土煙が立ち込める。
やがてそれが晴れると、巨石の上には1人の女性がいた。
「正義の味方! グリーン仮面参上です!! むんっ!!!」
彼女はそう叫び、ポーズを決めた。
グリーン仮面と名乗った女性は、身長150センチほどの小柄の少女であった。
だが、その頭には緑色のパンツを被っていた。
まごうことなき変態である。
レッド仮面とは異なり、全身を露出してはいないのがせめてもの救いか。
この世界には珍しい、全身を覆うヒーロースーツ風のコスチュームを着ている。
手には手袋を嵌めており、足もブーツを履いている。
「ちぃっ! 2人に増えやがったか!」
「それがどうした! こっちにはまだ10人以上いるんだぞ!!」
チンピラたちは気勢を上げる。
しかし――
「な、なんだ!? なぜこんな街中に霧が……?」
1人の男が異変に気付いた。
いつの間にか、周囲が濃い霧に包まれていたのだった。
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