俺はリオンを撃破した。
そして、人魚メルティーネと出会った。
彼女は、かつてリオンに捕らえられていた人魚らしい。
憎い相手を倒した俺に、感謝している様子だ。
「まぁ、『ナイトメア・ナイト』ですか。人族の名前は変わっておりますのね」
「いや、これは……」
あくまでコードネームなんだけどな……。
しかしそれを伝えれば、次こそは本名を名乗らざるを得なくなる。
ここは彼女の誤解を放置するしかない。
「ふふっ。では、ナイ様。この男をやっつけてくれたお礼に、私たちの里へご招待しますわ」
「里……だと……?」
「はい。盛大な宴をさせていただきますわ」
「……いや、今回は遠慮しておこう」
人魚の里。
気になる。
いろいろと珍しい道具や素材があるかもしれない。
リオンの口ぶりからしても、この機会を逃せば一生行くことはできないかもしれない。
だが、俺は断った。
「あら? どうしてですの?」
「実は、急ぎの用事があってな。とても残念だが……またの機会にさせてほしい」
これは本当だ。
俺にはヤマト連邦へ向かう使命がある。
オルフェスに残しているモニカとニム、それにラーグで待機している他の面々を放っておくわけにはいかない。
そこらの普通の村に行くだけならまだしも、人魚の里だからな……。
貴重な体験である一方、予測不能の事態が起きないとも限らない。
例えば、里で1日を過ごしている間に地上では1年が過ぎていたり……。
まぁそこまで極端なことはなかったとしても、油断はできない。
数週間程度のタイムラグでさえ、ヤマト連邦の任務が控えた今ではキツイものがある。
「そうなのですか。それならば仕方ないですの」
「ああ」
「なら……せめてものお礼をいたしましょう。もっと下に来てくださる?」
「む? ……わかった」
俺は重力魔法の出力を調整し、素直に海面へと近づいていく。
人魚のお礼か。
いったい、どんな素晴らしいものが――
「ふふっ。近くで見ても、素敵な殿方であることがわかりますわね」
「世辞は要らんぞ」
「お世辞ではありませんの。これが私の初恋でございます。そして――」
ちゅっ。
次の瞬間、俺の唇に柔らかい感触が伝わった。
「な……!?」
「うふふ。私のファーストキスを差し上げますの」
メルティーネが妖艶な笑みを浮かべる。
「……な、何をする!」
「あら? 感謝の気持ちを行動で示しただけですのよ?」
「……」
俺は言葉を失う。
まさか、人魚がここまで積極的だとはな。
正直、予想外だ。
「人魚のファーストキスには、人族にとって特別な意味と効果がありますの。ナイ様に幸運が訪れることを祈っておりますのよ」
「い、いや……。俺は――」
「それでは、失礼いたしますの。いつかまたお会いしましょう」
そう言うと、メルティーネは優雅に身を翻す。
そして、海中へと消えていった。
「……」
俺は呆然と空中に佇むことしかできなかった。
お礼というのが、まさかのキスとはな……。
それも、人魚から――
「はぁ~……」
俺は大きなため息をつく。
まさか、こんな形で人魚とのファーストコンタクトを果たすことになるとは思わなかった。
人生は何が起こるか分からないものだな。
「さて、とりあえずリオンを回収して戻るとするか……」
俺はリオンを回収するべく、彼の元へと向かう。
俺とメルティーネが会話をしている間に、少しばかり流されていたようで、彼は遠くの方に浮かんでいた。
「おい、リオン! 生きてるか?」
「……」
返事がない。
ただの屍のようだ。
……というのは冗談として。
「生きているんだろ? 闘気の量が戻ってきているじゃないか」
ズタボロ状態だったはずなのに、ちょっと会話をしている間に回復するとは。
やはり英霊ベテルギウスの力は侮れない。
まぁ、その効力も間もなく切れるはずだが……。
ビクンッ!
水面に浮かぶリオンの体が跳ねた。
「……ん? なんだ?」
俺は警戒する。
大ダメージを受けて痙攣でも引き起こされているのだろうか?
あるいは、英霊纏装の副作用か……。
「こんな……に…………困るな……」
リオンが何か言っているようだが、聞き取れない。
ただ、意識を取り戻しているのは間違いなさそうだが……。
「こんな奴に負けてもらっては困るな。我が力の使い方を見せてやろう」
リオンの声が急にはっきりしたものになった。
そして――
ドッゴォーーン!!
彼の闘気が瞬時に膨れ上がり、周囲の海水を吹き飛ばした。
「なにっ!?」
俺は慌てて距離を取る。
水しぶきの中、姿を現したのは――
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