「貴様ぁああああああ!! よくも妹たちを!!」
「おっと、危ない」
俺は景春の攻撃を回避する。
そして、彼の足を払った。
「うぐっ!」
彼は勢いよく転び、床に倒れる。
だが、すぐに身を起こした。
まだ戦闘の継続は可能しい。
……加減が難しいな。
彼は腹に深い刺し傷があり、両腕には大火傷を負っている。
常人ならば、戦闘を続けるどころか、既に死亡していてもおかしくないぐらいの状態だ。
しかし、彼は藩主。
なかなかの妖力や生命力を持っている。
戦闘不能に追い込むためには、もう一押し必要らしい。
「無理するな。本当に死ぬぞ?」
「うるさい! 余の妹たちを殺しておいて……よく……も……?」
景春は言葉を止める。
そして、双子を見た。
「……無傷? あれほどの剣閃を受けて……?」
「さっきのは脅しさ。当てていない」
闇の素晴らしさに気付いた俺だが、無闇に命を奪うつもりはない。
今の俺は、俺の目的を邪魔する存在に容赦はしないが……。
さすがに女子供を問答無用で殺すのはな。
「この期に及んで……不殺を貫くつもりか?」
「……いいや? さっきのは最後の警告だ。次は殺す。まずは双子の片割れからだな」
「くっ……」
「それが嫌なら、さっさと降伏しろ。俺が桜花藩を支配するにあたり、お前は元藩主としての利用価値がある。血統妖術も興味深いしな」
俺が桜花城を攻めた理由……。
それは、ええっと……。
ああ、そうだ。
紅葉たちを救出するためだな。
俺という存在の危険性を示せた今、戦闘を中断しても紅葉たちを無事に返してもらえる可能性はそこそこ高い。
だが、確実とは言えない。
俺を制御するための人質として紅葉たちが監禁されるリスクはあるし、あるいは俺への罰の一環として紅葉が処刑されるリスクもある。
万全を期すためには、ここで景春を屈服させて俺自身が桜花藩のトップに君臨するべきだろう。
それに、ミッションの件もある。
桜花城を攻め落とせば、ミッションの一つが達成となる。
報酬として加護(大)とやらが解放される他、俺の記憶を取り戻すため何らかのヒントを得られるかもしれない。
「さぁ、どうする? 俺の気が変わらないうちに――」
「「【二重桜花槍】!!」」
「――ぶぺっ!?」
俺の言葉は途中で遮られた。
桜の槍によって、俺の頭部が吹き飛ばされたからだ。
「おいおい、ひどいな……。俺じゃなければ死んでいたかもしれないぞ?」
俺は頭部を元通りの形にしながら、告げる。
特殊な纏装術『炎精纏装・サラマンダー』を発動中の俺に、生半可な物理攻撃は通じない。
今の妖術はそこそこ強力だったが、純粋な力量差に加えて相性差もある。
「補助しかできない無力な存在だと侮っていたよ。さすがは桜花家の血筋だ。それに、双子ならではの相乗効果もあったのかな?」
先ほどの攻撃は、景春のものではない。
彼の妹たちのものだ。
彼女たちとも『お話』する必要があるらしい。
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