「さぁて……。どうしたものかね?」
俺は刀を構え、景春と対峙する。
彼は傷を負っている。
右手にそこそこの切り傷。
そして、腹に深い刺し傷だ。
だが、その目に宿った闘志は消えていない。
「まだやるのか? お前じゃ俺には勝てんよ」
「余を……舐めるな!!」
景春は叫び、桜の花びらを舞わせた。
その妖力の密度から察するに、彼の全力であることが分かる。
「桜花家伝来……【乱舞・千本桜】!!」
景春が叫ぶ。
千本桜……か。
俺の必殺技と同じ名前だな。
ちょっと親近感が湧いてくる。
「でも、実際の数は1000もないだろ。見掛け倒しだな」
俺は言う。
彼の周囲に舞っている花びらは、せいぜい500枚といったところか?
1000には遠く及んでいない。
「そういった技の弱点は知っている」
俺は花びらに構わず、突っ込む。
ビビって下手に距離を取るより、接近した方が意外に安全なのだ。
「なっ!?」
景春が驚愕の表情を浮かべた。
だが、もう遅い。
俺の振るった刀は、彼の左腕を切り裂いた。
「うがぁぁっ! ……あ?」
景春は大声を上げる。
だが、すぐにその声を止めた。
切り落とされた左腕が、桜の花びらに変化したのだ。
彼にダメージはない。
「ちっ! 手加減しすぎたか……」
俺は舌打ちする。
魔力や闘気の調整が難しい。
出力を大きくしすぎると、攻撃力が過剰になる。
俺の身体制御も大雑把となるため、頭部や心臓をうっかり吹き飛ばしてしまう可能性すらある。
しかし一方で、出力を抑えすぎると今回のように『散り桜』で無効化されてしまう。
「なぜだ……? 貴様ほどの能力があれば、余を害することなど容易いはず……」
「……ふん」
「そうか……。そういうことか」
景春は察したようだ。
俺が手加減した理由を。
「貴様は……余のことを藩主として不適格だと考えているようだが……。貴様も同じらしいな」
「……何が言いたい?」
「敵であっても、殺したくはないのだろう? 『無闇な殺生は避けたい』『投降した敵には情をかける』などと考える者は桜花七侍にもいるが……。貴様ほどに甘い男は、見たことがない。乗っ取ろうとしている藩の主を目の前に、手を抜くとは」
「甘い男……か」
俺は呟く。
確かに甘いのかもしれない。
俺は記憶喪失だが、誰かを殺した経験はなかったと思う。
人を殺す……それは本当に最後の手段だ。
闇に染まって思考がクリアになった今も、それだけは変わらない。
違いがあるとすれば、生死以外への頓着だろうか。
以前の俺は、肉体的な傷や精神的なダメージにすら気を遣っていたように思う。
だが、闇の素晴らしさを受け入れた今は、そういった配慮を捨てた。
「俺が甘い……それがどうした? どちらにせよ、お前に勝機はない」
「持久戦に持ち込めば、階下の侍が駆けつけてくる」
「それまで持ち堪えられるのか? お前に教えてやろうか……世の中には、死ぬより辛いことがあるんだぜ?」
「……」
「例えば……【豪熱球】」
俺は手のひらを上に向ける。
そこから火球が放たれた。
「っ!?」
「これは特殊な技でな……。攻撃範囲も射程も持続力も、大したことがない」
俺は言う。
豪熱球は、俺が調整した独自の火魔法だ。
諸々の性能が低く、とても使いにくい。
普段の戦闘では出番がなかった。
しかし、この局面では活用方法がある。
それは……
読み終わったら、ポイントを付けましょう!