「さて、どうする? 俺にも物理攻撃は通じないんだ……。体が炎に変質しているからな」
俺の問いに、景春は答えない。
彼は槍が貫いた俺の肉体……風穴の開いた部分を呆然と眺めていた。
「そ、そんな馬鹿な……! 桜花家の血統妖術に匹敵する術を……流浪の侍が持っているなど……!!」
「まぁ、お前の『散り桜』も悪くないと言っておこう。だが、相手が悪かった」
俺は言う。
チート持ちの俺に勝てる奴なんて、そうそういない。
「くっ……! しかし、余の絶対的な防御力は健在だ! 刀でいくら斬ったところで……!?」
景春が言いかけた瞬間、彼の右手から血しぶきが上がった。
「なっ……!?」
「斬れるんだよなぁ、それが」
俺は言う。
彼を斬ったのは、もちろん俺だ。
ちょっと狙いがズレて、思ったよりも深く斬ってしまったが……。
特に支障はない。
「ば、馬鹿な……!! 何故、桜化しない!?」
「魔力・闘気・妖力……。それらを適切に変質させ強化すれば、相手の武技を無視してダメージを与えることも可能なのさ」
「そ、そのようなことが……!?」
「できるんだなぁ……これが。ま、実力差や相性によって大きく左右されるけどな」
景春の『散り桜』は、そこそこ程度には強力な術だ。
1~3階にいた侍たちでは、天地がひっくり返っても破れないだろう。
4階の『桜花四十九侍』でも厳しい。
直属の『桜花七侍』の内、桜と相性のいい炎系妖気を操れる侍がいれば、あるいは突破できるかもしれないな。
そして、俺ぐらいのレベルならば炎系に拘らなくとも打ち破れる。
そんな感じだ。
「くっ!? う、うぅ……!」
景春は気丈に振る舞うが、怯えが見て取れる。
血統妖術にかなりの自信を持っていたらしいな。
ま、その気持ちも分かるが。
「自分を無敵とでも勘違いしていたか? 上には上がいるんだ」
「う、うるさい!」
「虚勢をはるな。みっともないぞ」
「黙れ!!」
景春が叫ぶ。
彼は再び、桜の花びらを舞わせた。
先ほどとは違い、数も規模も圧倒的に多い。
加えて、懐の剣も抜いている。
「無駄だ。お前の妖術は俺に通じん。まして、付け焼き刃の剣術など効くものか」
「黙れ! 黙れ!! 余は……桜花藩の藩主、桜花景春なり! 民のため、臣下のため……! 外敵に屈するわけにはいかぬのだ!!」
景春が叫ぶ。
彼の周囲に舞っている花びらが、次々と俺に襲いかかってきた。
「うぉぉぉぉぉっ!!」
景春は雄叫びをあげ、剣を振るった。
その斬撃は、俺の体を捉える。
しかしもちろん、それで俺がダメージを負うことはない。
「隙だらけだ」
「あぐっ!?」
俺は景春の足を狙い、刀を振るう。
だが……なにせ彼は暴れていた。
狙いはズレてしまい、その刀は景春の腹に深々と突き刺さった。
「あーあ、変に動くから……」
「くそっ! この程度の傷……!!」
「……落ち着けって。その傷は致命傷だ。早く治療しないと死ぬぞ?」
「余は桜花藩を背負っているのだ……! 父が病に倒れ、妹たちはまだ幼い……! 余所者に桜花の地を任せるわけにはいかぬ! たとえ、この身が滅びようとも!!」
景春が言う。
ふむ……。
責任感が人一倍強いようだな。
あの悪政をしていた者と同一人物とは思えない。
そんな彼を大人しくさせるには……。
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