「おらおらっ! こっちだ!!」
「ゴオオォッ!!」
俺はジャイアントクラーケンの周囲を飛び回りながら、触手を攻撃していく。
しかし……。
「ちっ! ダメだな……」
俺は舌打ちをする。
通常の攻撃では、大したダメージを与えられない。
チクチクと小ダメージを積み重ねていくのが精いっぱいだ。
ジャイアントクラーケンを人間に置き換えて考えると……。
せいぜい、子猫に手足を引っ掻かれ続けている程度だろうか?
討伐には程遠い。
「ゴオオォッ!!」
ジャイアントクラーケンは、苛立ったように触手を暴れさせる。
海面が激しく揺れた。
「……まぁいい。こうして、意識を俺に向けさせることには成功したのだから」
子猫に引っ掻かれる程度でも、連続でやられれば苛立つ人間は多いだろう。
ジャイアントクラーケンも、俺からのチクチク攻撃を嫌がっている様子だ。
この調子で、足止めさえできればいい。
その間に、ミティたちが乗っている隠密小型船は逃げ切れるはず。
俺はチラリと、そちらに目を向ける。
「……まだあそこか」
隠密小型船の最高速度は、さほどでもない。
潜伏能力や長期航海能力に比重を置いているためだ。
既にジャイアントクラーケンの攻撃範囲外には逃れているものの、まだ安全圏とは言い難い。
「ゴオオオォ……!!」
「おっと! どこへ行こうと言うのかね?」
俺はジャイアントクラーケンの行く手を阻む。
自分の周囲をウロチョロする子猫より、遠くの船を追おうとし始めたのだ。
ジャイアントクラーケンが本格的に加速を始めれば、やがて船に追いついてしまう。
そうなれば危険だ。
なんとしても、ここで足止めしなければ!
「はあああぁっ! 【爆裂火炎弾】!!」
俺は火魔法を放つ。
触手にダメージを与えた。
「ゴオオォ……ッ!!」
ジャイアントクラーケンはこちらに意識を向けた。
俺のことを、鬱陶しいハエとでも認識しているのだろう。
「うおっ!?」
俺は触手の攻撃を紙一重で躱す。
しかし、少し掠ったため痛みを感じた。
「まだまだっ!」
俺はチクチクと攻撃していく。
ミティたちが乗っている船は、まだ視認できる距離にある。
大技は危険だ。
俺の攻撃でみんなに危害を加えてしまったら、悔やんでも悔やみきれない。
俺は回避しながら、チクチクと攻撃を続ける。
「船は……あそこか。そろそろ時間稼ぎを切り上げて、合流するか? いや……」
俺は思考する。
ジャイアントクラーケンの強大さは、想像以上だ。
攻撃力も耐久性もずば抜けているように感じる。
重力魔法で小回りのきく俺だから何とか戦えているが、総力戦で正面から戦うのはやはり厳しいだろう。
みんなには確実に逃げてもらいたい。
ならばここは、もっともっと時間を稼ぐべきだ。
「船はかなり離れてくれたが、まだ視認できる距離でもある。……もう少し頑張ってみるか」
俺はそうつぶやきつつ、ジャイアントクラーケンの触手攻撃を回避した。
そして、思考を続ける。
船が視認できない距離まで逃げたときに合流するか?
いや、欲を言えばもっとだな。
ジャイアントクラーケンに『魔力感知』系統の能力が備わっているかもしれないからだ。
魔力の気配すら感じ取れないぐらい離れたい。
「みんな、合流は少し後になりそうだ。そのまま逃げてくれ。――むっ!?」
ふと、俺は気付いた。
この距離でも、みんなのステータス画面を確認できることに。
「こんなに離れていても、対象範囲だったとはな……」
今までは気付かなかった。
これまでは、対象の顔を視認できるくらいまで近づかなければ、ステータス画面を確認することはできなかったのだが……。
ああ、そういう意味では今も条件を満たしているか。
今の俺たちは、大海原のど真ん中だからな。
視界を遮るものは何もない。
「俺との別行動が長くなる可能性がある。今のうちに、『ステータス操作』でスキル強化をしておこう」
さっきのクラーケン戦によりミッションを達成し、それぞれにスキルポイントが20も入っている。
俺はそれらを使っておくことにした。
俺が不在の間にまた別の魔物に襲われたり、ヤマト連邦に上陸時にサムライとかに襲撃されるかもしれないからな。
「ええっと……。まずはミティのスキルを――むっ!?」
俺は身をひるがえし、触手の攻撃を回避する。
みんなのスキルを強化するのも大切だが、そればかりに集中するわけにもいかないらしい。
「ゴオオオオォ……!!」
ジャイアントクラーケンが、唸り声を上げる。
迫力満点だ。
「ちっ! 少しぐらい待っててくれてもいいものを……」
俺はジャイアントクラーケンの巨体を見上げる。
こうして、俺は時間稼ぎをしつつ、ミリオンズのスキルポイントを割り振っていくのだった。
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