俺はダークガーデンの首領として、究極の攻撃魔法を発動した。
自分を中心に大爆発を引き起こす『アイ・アム・ダイナマイト』。
その威力はまさにダイナマイト級。
欲を言えばアトミック級の威力を出せれば良かったのだが、さすがにそこまでは無理だ。
しかしそれでも、リオンを撃破するには十分な威力だろう。
「ぐあああぁーーっ!!」
リオンの悲鳴が聞こえる。
大爆発に為す術もないようで、そのまま吹き飛ばされていく。
「ば、バカな……。火魔法……水魔法……重力魔法……。これではまるで……まるで――」
リオンの言葉はそこで途切れる。
ボロ雑巾のようになった彼が、海へと落下していったからだ。
「ふぅ……。これで終わりか」
俺はため息をつく。
英霊ベテルギウスの力は、想像以上に厄介だった。
使い手のリオンが未熟なのでどうとでもなると思っていたのに、まさか基本性能だけでここまでゴリ押しされるとはな。
本来の使い手である龍神ベテルギウス本人がその力を振るっていたらどれほど強いか。
想像もできない。
「さて、リオンの奴を回収しておいてやるか。これから改心する可能性はゼロじゃないからな……」
完全に改心すれば、罪を償った後にハイブリッジ男爵家で研究員として雇ってもいい。
ぼちぼちの改心なら、罪を償いがてら隷属の首輪をはめた状態で、同じくハイブリッジ男爵家で研究員として雇うか。
改心の様子が全くなければ、ここの衛兵隊か王都騎士団あたりに引き渡して、適切な処分を受けてもらうことになるだろう。
俺はそう考えながら、リオンの回収に向かう。
「――ん?」
「…………」
月明かりに照らされた海の上に、人の顔が見えた。
復活したリオンが顔だけを出しているのかと思ったが、違う。
なぜなら――
「な、なんて美しい女性だ……。まるで女神のような――」
俺は思わずつぶやく。
目の前には一人の美女がいた。
輝くような金色の髪と青い瞳を持つ絶世の美女だ。
ただ、彼女の美しさの全ては――純粋な人間のものではないように思えた。
「お前は……一体……?」
俺は恐る恐る尋ねる。
すると、彼女はニッコリと微笑んだ。
「――私は人魚ですのよ。こんなところで会うなんて奇遇ですね、人族の方」
「人……魚……?」
俺は呆然と繰り返す。
「はい。私の名前は、メルティーネといいますのよ」
「そ、そうか……」
俺はなんとか言葉を絞り出す。
しかし、頭の中は混乱していた。
この世界に人魚がいることは知っていた。
サリエにもらった書物に記載があったし、リオンの話にも『人魚の血』のくだりは出てきた。
しかし、実際にその姿を見たことはなかったのだ。
「まさか、本当にいるとはな……」
「はい。何やら海上が騒がしかったので様子を見にきましたのよ。そしたら……憎きあの男の顔が見えたのでびっくりしましたの」
そう言って、メルティーネは少し離れた海面を指差した。
そこには、ズタボロ状態のリオンが浮かんでいた。
どうやら生きているようだが、戦闘継続は不可能だろう。
これで一安心だ。
「……『憎きあの男』だと? どういうことだ……?」
「はい。私はこいつに捕まって、狭い場所に閉じ込められていましたのよ。ずっと自由を奪われて……もう嫌になっていましたの」
「そうか。それは災難だったな」
「本当に災難でしたのよ。おやつは1日に3回しか出ないし、大道芸をさせてもつまらないことしかしませんし……」
「…………」
俺は思わず閉口してしまう。
捕まっていた割には、結構いい暮らしをしていないか?
リオンも苦労していたようだ……。
「だから隙を見て脱出して、海に逃げたんですのよ。この男はいつか痛い目に遭わせたいと思っていたのですが、貴方がやっつけてくれましたのね。胸がすく思いですのよ。ありがとうございます」
「いや、礼には及ばない。俺は俺のためにやっただけだ」
「まあ、お優しいのですね」
「当然のことをしているまでだ」
「お名前を聞いてもよろしいですか?」
「俺の名は――」
俺は一瞬、本名を名乗りそうになる。
しかし、すぐに思いとどまった。
「――俺は『ナイトメア・ナイト』だ」
ここは海上。
リオンはおそらく気絶しているので、この場には俺とメルティーネしかいない。
タカシ=ハイブリッジ男爵であると名乗っても良かったのだが、念には念を入れた感じだ。
人魚という種族が、どれほどの規模でどういった生活を送っているかわからないからな……。
彼女からオルフェスやヤマト連邦へ何らかのルートで情報が伝わっていかないとも限らない。
さて。
人魚メルティーネから少しばかり情報収集をした後、リオンを回収してオルフェスに戻るとするかな。
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