雪月花が狩りを終えて帰ろうとしたところ、道が倒木で塞がれていた。
対処を考えていたとき、ヤナギたち6人ほどの冒険者が現れた。
「なんであんたがここにいるのよ!?」
「いやいやぁ、偶然ですよ~。遠くから、あなた方が見えたものですから~」
「偶然? 白々しい……。私たちをつけてきたんでしょうが!」
「人聞きの悪いことを言わないでくださいよ~」
ヤナギはわざとらしく肩をすくめた。
「ふん。どうせ私たちにちょっかいを出しに来たんでしょ。わざわざ待ち伏せまでして、ご苦労なことね」
「いえいえ、そんなつもりはありませんよぉ。むしろ、その逆ですぅ」
「はぁ……?」
月が怪しんだ視線を向ける。
そして、雪が小声で耳打ちする。
「……月姉ぇ、どう思う……?」
「わからない。でも、油断しない方がいいと思う」
「同感~。……花ちゃんも警戒しておくね~」
雪月花の姉妹は、臨戦態勢に入った。
「おやおや、ずいぶんと物騒ですね~。私たちは協力しましょうと提案しようとしただけですよぉ~」
「協力ですって?」
月の問いに、ヤナギは口角を吊り上げた。
「そうですよぉ……。この倒木が邪魔で、私たちは帰れないのです。戦果を放棄すれば帰れますが、それは少しもったいないのでね」
彼らのパーティはアイテムバッグを持っていない。
そのため、狩りの戦果は荷車で運んでいる。
荷車で通ることができる道は、森の中では限られている。
「多少の作業時間があればこの程度の倒木はどうにかできるのですが……。あいにく、MPを使い果たしておりましてね。ここで一夜を過ごすしかないんですよぉ」
「……で?」
「どうです? 共に夜を過ごしませんかぁ~?」
「お断りするわ! あんたたちの下心が見え見えじゃない!」
「まぁまぁ、そう言わずに……。あなたたちも戦果を持って帰りたいでしょう?」
「お生憎様! 私たちはアイテムバッグを持っているから、別に今のままでも持って帰れるわ」
ハイブリッジ男爵家の御用達冒険者である雪月花には、タカシからアイテムバッグがプレゼントされていた。
御用達魔導技師のジェイネフェリアが製作したアイテムバッグだ。
「ほう……? しばらく見ないうちに、ずいぶんと稼いだようですねぇ。羨ましいですよ」
ヤナギがそう言う。
性能にもよるが、アイテムバッグが高級品だ。
荷車よりも遥かに利便性が高いので欲しがる冒険者は多いが、大抵の冒険者は手が出ない。
Dランク以下の冒険者はまず持っていないし、Cランク冒険者における所有率もまずまず程度だ。
「そりゃどうも」
「そんな優秀な雪月花ちゃんたちにお願いですよぉ。一緒に一晩を明かしましょう?」
「嫌だって言ってるでしょうが!」
月は拒否するが、それで引き下がるような相手ではない。
「それなら仕方がないですねぇ。力ずくといきます」
「……いいの? 後悔することになる……」
「そちらこそ、痛い目を見ないうちに大人しく従った方が賢明だと思いますよぉ」
「上等よ! ぶっ潰してやるわ!」
「やっちゃうの~? みんな、血の気が多いよ~」
こうして、雪月花とヤナギたちの戦いが始まった。
雪月花はCランクパーティであり、それぞれの個人ランクもCだ。
ヤナギが率いる6人パーティも同じCランクだが、個々の実力では雪月花が勝っている。
ただ、人数差はそれなりに脅威だ。
パーティとして連携されると分が悪い。
戦いはどちらに有利とも言えない膠着状態が続く。
だが、それも長くは続かなかった。
「はぁ、はぁ……」
「ほらほらぁ。どうしたのですかぁ? 息が上がっていますよぉ?」
「……うるさい!」
月がヤナギに対して防戦一方になっている。
そして――
「これで終わりですよぉっ!」
ヤナギが大振りの攻撃を放つ。
「きゃあああぁっ!」
月の胴体を狙った一撃が、見事に決まった。
――ように見えた。
「【朧】」
「なにぃっ!?」
月の身体がゆらりと揺らめく。
次の瞬間、月の剣撃がカウンター気味に入る。
「うがあぁぁぁッ! い、いつの間にこれほどの影魔法を……」
ヤナギは悲鳴を上げながら、地面に倒れた。
「なっ!? リ、リーダーが……」
「おいおい、どうすんだよこれ……」
「構わねぇ。まだ勝機はある!」
男たちが狼惑している隙に、花と雪が攻勢に転じる。
着実にダメージを与えていく。
そして――
「【リーフブレード】~」
「……聖闘気、迅雷の型……」
花と雪が同時に必殺技を発動する。
「なっ!? これほど高威力の植物魔法を!?」
「以前よりも闘気の出力が跳ね上がってやがる……!」
男たちと雪月花には、一応の面識がある。
当然、互いの実力はある程度把握していた。
だが、今の雪月花はタカシによる加護の恩恵を受けている。
彼女たちの戦闘能力は、彼らの想定のひと回り上をいくのだ。
「「「「「ぎゃあああぁっ!!!」」」」」
男たちは悲鳴を上げて倒れた。
勝負ありである。
6人の冒険者たちが倒れ伏す中、雪月花は悠然と立っていた。
「ふぅ……。なんとかなったわね」
「やった~。花ちゃんたちの勝利~」
「……でも、結構疲れたね。時間も掛かったし……」
三人がそんなことを言っているときだった。
「「「ギャオオォッ!!」」」
「えっ!?」
森の奥から、ゴブリンの群れが現れたのだった。
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