ゴブリンの巣を襲撃しているところだ。
ユナの火魔法により、多くのゴブリンを討伐することができた。
しかし、巣に1匹だけ生き残りがいた。
ゴブリンキングである。
ミドルベアやジャイアントゴーレム以上に危険な魔物らしい。
そして、巣の異常を感じ取ったゴブリンたちも戻ってきた。
数は20匹程度。
このゴブリンたちの相手はアイリスやモニカたちに任せる。
俺とミティは、ゴブリンキングの相手をすることになる。
俺たちはアイリスたちから離れ、ゴブリンキングのほうに向かう。
「よし。まだ距離があるうちに、俺の火魔法でさらに攻撃しておこう」
「わかりました。私も、投擲で追撃しますね」
俺の言葉を受けて、ミティがそう言う。
俺は火魔法の詠唱を開始する。
「炎あれ。我が求むるは豪火球。三百本桜!」
俺の三大火魔法のひとつ、三百本桜である。
日頃の鍛錬、基礎ステータスの向上、そしてミティにつくってもらった紅剣ドレッドルート。
これらにより、とうとう300個ものファイアーボールを同時に発動できるようになったのである。
ドドドドド!
ドドドドドドド!
ドドドドドドドドド!
300個のファイアーボールがゴブリンキングを襲う。
1個1個の威力はさほどでもないが、300個もあれば驚異だろう。
ゴブリンキングは回避や防御を試みているが、もちろん全てを防ぎ切ることなどできはしない。
ファイアーボールの狙い目は、適度に散らしてランダム性を持たせているからだ。
さらに、ミティも投石で攻撃してくれている。
ゴブリンキングの周りが煙で覆われる。
「やったか!?」
俺はそう言う。
しかしーー。
「タカシ様! まだです!」
ミティがそう叫ぶ。
「ごああああぁっ!」
ゴブリンキングが煙の中から姿を表した。
やつがこちらに駆け寄ってくる。
ダメージは確実に蓄積されてはいるが、まだまだ元気だな。
接近されてしまったし、ここからは近接戦だ。
「よし。ミティがつくってくれたこの紅剣ドレッドルートの力を見せてやるか」
「私も援護します!」
俺とミティで、ゴブリンキングと戦っていく。
やつはダメージも蓄積されているので、さほど動きは鋭くない。
一方で、俺とミティは近接戦闘においてもかなりの戦闘能力を誇る。
俺は剣術レベル4を持っているし、ミティは槌術レベル5を持っている。
また、それぞれステータス強化系のスキルなども伸ばしている。
多少強力な魔物だろうと、もはや俺たちの敵ではない。
「せいっ!」
「ふん!」
俺の剣とミティのハンマーにより、ゴブリンキングに着実にダメージを与えていく。
「がああっ!」
ゴブリンキングが力任せに攻撃を繰り出してくる。
しかし、もちろんそんな攻撃をまともに受ける俺たちではない。
軽く躱す。
俺たちの優勢だ。
このまま地道に削っていけば安定して倒せるだろう。
しかし、アイリスやモニカたちの様子も気になるところだ。
できれば早めに討伐を済ませたい。
「さて、そろそろとどめといくか。ミティ、少しだけ時間を稼いでくれ」
「わかりました!」
俺は紅剣ドレッドルートを両手で構え、大技のために力をためる。
この剣はそれほど重くないので片手でも持てるが、もちろん両手のほうが威力が増す。
知ってるか?
剣ってのは、片手で振るより両手で振った方が強えェんだ。
「斬魔一刀流……魔皇炎斬!」
「ごあっ!」
俺の斬撃を受けて、ゴブリンキングの胸に大きな切り傷が入る。
魔皇炎斬は、火炎斬や獄炎斬よりさらに上の技だ。
やつがこちらをにらみ、何とか反撃を試みようとする。
だがーー。
「ギガント・ホームラン!」
「ぎゃっ!」
ゴブリンキングの意識が俺に向いたスキに、ミティがハンマーによる強烈な横振りの一撃を入れる。
やつの巨体が、勢いよく弾け飛んでいく。
そして、数十メートル先の廃墟に突っ込んで止まった。
「……おお、まだ立ち上がるか」
ゴブリンキングがガレキの下から這い出てくる。
また俺たちに向かってくるか……と思ったが、そうはならなかった。
くるり。
やつが俺たちに背を向ける。
俺たちからもアイリスやモニカたちからも、遠ざかる方向だ。
「どうやら逃げるようですね。私の投石でとどめを刺しましょう。うまく当てられるといいのですが……」
ミティがそう言う。
ゴブリンキングは害のある魔物だ。
みすみす逃がすわけにはいかない。
ミティの投擲術はレベル5まで伸ばしている。
しかし、数十メートル以上離れた逃げる相手を確実に捉えるほどのコントロールはまだない。
ここはーー。
「待て、ミティ。俺に任せろ」
確実に仕留めるなら、ミティの投石よりもいい手段がある。
俺の言葉を受けて、彼女が1歩下がる。
「燃え爆ぜろ。フレア……」
俺はそう唱えて、攻撃のために魔力と闘気をためる。
そして。
「ドライブ!」
俺は爆速で移動する。
自身の後方に火魔法を発動し、推進力に変換する技だ。
加えて、火を体と拳にまとうことで、攻撃力も向上している。
「ぎっ!? ごああああぁっ!」
ゴブリンキングは俺の想定外に速い接近に、反応が遅れる。
そのまま俺の右ストレートをモロにくらい、再び弾け飛んでいった。
今度こそ討伐できただろうか。
やつは相当にタフだし、まだギリギリ生きているかもしれない。
俺は遠くで倒れ込んでいるゴブリンキングの様子をうかがう。
…………。
なんと、まだ生きているようだ。
手足がピクピクと動いている。
今すぐに逃げ出しそうな感じではないので、近づいて剣で首を切り落とすか。
それが確実だろう。
俺はそんなことを考えつつ、ゴブリンキングのほうに向かい出す。
「タカシ様。とどめは私にお任せを」
「ん? ああ」
ミティががんばって俺に追いついてきていたようだ。
彼女は、何やらアイテムバッグから巨石を取り出した。
びゅんっ。
彼女は、その巨石を空高く投げ上げた。
斜め上方向だ。
ゴブリンキングのいる方向に向かって巨石が飛んでいく。
投擲角度は、地面から60~70度といったところか。
ミティの風魔法により、投擲速度が補強されている様子も見受けられる。
そしてーー。
「メテオドライブ」
ドゴオオオン!!!
ミティの放った巨石は、見事にゴブリンキングに直撃した。
ゴブリンキングが巨石に押し潰される。
間違いなく死んでいるだろう。
「お、おお。見事だ」
「いえ。止まっている相手であれば、これぐらいは」
ミティがそう言う。
逃げ回る相手ならまだしも、止まっている相手であれば遠くでも命中させる自信があるようだ。
彼女のコントロールに対する認識を、改めないとな。
非常に頼りになる。
ゴブリンキングに近づき、死体を俺のアイテムルームに収納する。
この巨石を受けても、体がグチャグチャになってはいなかった。
なかなかの防御力を持っているな。
今の俺やミティの敵ではないが、1年ほど前の時点で遭遇していればヤバかったかもしれない。
さて。
アイリスやモニカたちの様子はどうなっているだろうか。
チラチラと様子をうかがっていた感じでは、特に劣勢というわけでもなさそうだった。
彼女たちが今さらゴブリン程度に遅れを取るとは思えない。
しかし、万が一ということはもちろんあり得る。
俺とミティで、急いで加勢に戻ることにしよう。
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