冒険者で護衛依頼の達成報告を済ませた。
冒険者ギルドから出る。
さて。
モニカとニムのことが心配だな。
「ミティ。まずはモニカさんのところに行こうか」
「そうですね。彼女の身や店が無事か心配です」
ミティが心配顔でそう言う。
「モニカって?」
アイリスがそう尋ねてくる。
「ああ、この街で贔屓にしていた料理屋の店員さんだよ。親しくさせてもらっていてね」
「そうなんだ。わかった。ボクも付いていくよ」
3人でモニカのラビット亭に向けて歩き出す。
ラビット亭が見えてきた。
が、これは……。
「食堂が……半壊しているね」
「そうですね……。街中の家屋にも魔物による被害が出たとは聞いていましたが」
ミティがそう言う。
「嫌な予感はしていた。でもまさか、よりによってモニカさんの店が被害にあったとはな」
モニカは無事なのか。
聞いた話では、死者はいないということではあったが。
しかし、ケガはしている可能性がある。
半壊している店の奥から女性が出てきた。
モニカだ。
「タカシ……? それにミティも。久しぶりだね」
「お久しぶりです。モニカさん」
「護衛依頼で他の街に行ってたんだっけ? この街に戻ってきたんだね」
心なしか、モニカの表情が少し暗い気がする。
それはそうか。
自分の店が被害にあったんだからな。
「ええ。先ほど戻ってきたところです」
「来てくれたところ申し訳ないけど、しばらく料理は出せそうにないよ」
「いったい何があったのですか?」
「少し前に、魔物が街に入り込んで暴れたんだ。運悪く、私の店が被害にあった」
本当に、運が悪かったとしか言いようがないな。
周囲の他の家屋も多少の被害はあるようだが、ラビット亭の被害はその中でも大きい。
「それは……、残念でした。ケガはありませんでしたか?」
「逃げるときに、足をちょっとね。奥で療養していた父は、何とか無事だった。不幸中の幸いだね」
モニカの足を見る。
確かに、ケガをしているようだ。
包帯を巻いている。
小さくないケガのようだ。
歩けないほどではないみたいだが。
日常生活にも少し支障が出てしまうレベルだろう。
「お父様にケガがなくてよかったです」
「目下の悩みは、店の修繕をどうするかだね。貯金もそんなにないし、父の病気のこともあるし……」
モニカが少し沈んだ顔でそうこぼす。
「おっと、話しすぎたかな。まあ自分たちで何とかするよ。国や街から何か補助金が出るかもしれないし。無事に店を再開できたら、また食べにきてね。約束していた魚料理を振る舞うよ」
モニカはそう言って半壊している食堂に戻っていった。
うーん。
何とかしてあげたいところだ。
モニカの忠義度は現状25ぐらい。
低くはないが、特別高くもない。
だが、今回の件でうまく手伝えれば50以上も可能かもしれない。
忠義度の件は別としても、彼女の沈んだ顔は見たくない。
それに、彼女のおいしい料理をまた食べたい気持ちもある。
「モニカさんの店の再建を手伝いたいな。ミティとアイリスはどう思う?」
「タカシ様がそうおっしゃるのであれば、もちろん賛成です。私としても、知らない仲ではありませんし」
ミティがそう言う。
「ボクも賛成だよ。神官として、困っている人は助けないとね」
アイリスがそう言う。
ミティ、アイリスともに前向きに考えてくれるようだ。
彼女たちなら、そう言ってくれると思っていた。
「ありがとう。具体的な案は何かあるか?」
俺にもいくつか案はあるが、まずは彼女たちの案を聞いてみよう。
「力仕事なら私に任せてください。後は、お金を貸してあげるとかでしょうか? タカシ様が私にくださっているお金は、あまり使わずに貯めてあります」
ミティには、自由に使ってもらうお金として、稼いだ額の一部を渡している。
ちなみに俺自身にも同程度の額を設定して、お小遣いとして管理している。
残りはパーティとしての活動資金だ。
日々の生活費や装備の購入資金、そして借金の返済金はそこから出す。
そういう方針で資金を運用している。
アイリスがパーティに加わったので若干の見直しを検討中だが、基本的には同じような方針で今後も進めていくつもりだ。
「ミティの案は良いね。お金は、ミティの貯金ではなくて、パーティ資金から出そうかな。アイリスもそれでいいか?」
「お金の件はそれでいいよ。あと、さっきの話だと、病気かケガで療養中の父親がいるんでしょ?」
「ああ。あまり言いふらすことでもないが、働けないレベルの病気らしい」
俺も会ったことはないし詳細を聞いたこともないので、詳しくは知らないが。
「ボクの治療魔法を試してみたいな。強化してもらったし、症状の緩和ぐらいはできるかもしれない」
「なるほど。俺も治療魔法を強化したし、試してみるか」
俺もアイリスも、治療魔法をレベル3まで強化している。
いわゆる中級の治療魔法までなら使える。
試してみる価値はある。
モニカの父ももちろんだが、モニカ自身も足をケガしていた。
まずはそっちの治療も行わないとな。
方針は決まった。
力仕事を手伝う。
お金を貸す。
治療魔法を試す。
以上の3つだ。
このうち、力仕事と治療魔法は、今すぐにでも行うことができる。
一方で、お金を貸すことは少し慎重に検討すべきだ。
今の俺たちの所持金は金貨200枚はある。
この世界の家屋の修繕費の相場はわからないが、足しには十分になるだろう。
しかし、俺には借金がある。
金貨270枚分だ。
それを踏まえると、ポンと大金をモニカに貸せるほどの余裕はない。
……ん?
そういえば、バルダインからもらった魔石があったか。
売れば金になると言っていた。
特に謂れなどがないものとのことだし、思い切って売ってみるか。
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