「くっ……! ああ、せっかくの美味しそうな出汁が……」
彼女は拳を握りしめ、悔しげに唇を噛んだ。
黄金色に輝いていた芳醇な出汁は、無残にも地面へとこぼれ落ち、湯気を上げながら広場の地面に吸い込まれていく。
その香りが鼻をくすぐり、彼女の胸にさらなる怒りを燃え上がらせた。
瞳の奥で揺らめく蒼き炎。
それはまるで、沸点に達した鍋の底で激しく踊る波のようだった。
血潮がたぎる。
闘志が沸き立つ。
今、この場で引くわけにはいかない――彼女の食欲がそれを許さなかった。
「ワハハハハ! どうした!? 防戦一方らしいな!!」
琉徳の嘲笑が広場の空に高らかに響く。
その声はどこまでも傲慢で、揺るぎない勝者の余裕を感じさせた。
彼はコックピット内で悠々と腕を組み、己が繰り出した怪物の圧倒的な威力に満足げな笑みを浮かべている。
白銀の麺がうねるように揺れ、その一筋一筋がまるで生きているかのように微細な動きを見せた。
武骨でありながらも、どこかしなやかさを併せ持つ異形の巨体。
剛腕がわずかに持ち上がり、次の攻撃に向けた予備動作が始まる。
麺の繊維が軋み、風を切る音が広場に響いた。
「…………」
リーゼロッテは静かに息を整える。
たとえこの場が彼に有利であろうとも、諦めるつもりはない。
彼女の中にはまだ策がある。
「黙ってやられるつもりはありませんわ。こうなったら、こちらも……!」
彼女の言葉と同時に、空気が一変した。
広場の温度が急激に下がる。
草木が震え、地面に張りついた水滴がみるみる凍りついていく。
澄み渡る青の輝きが大気の中に広がり、まるで夜空に瞬く星のように煌めいた。
やがて、その輝きは渦となり、形を成していく――。
「氷結せよ――【グラキエス・うどんロボ】!」
リーゼロッテの足元から、氷の彫像のごとき巨兵が立ち上がった。
その身は透き通る氷で構成され、まるで芸術品のように美しい。
だが、その内部にはただの氷とは異なるものが存在していた。
絡みつくように走る無数の細い線――それは冷気に耐えうる特殊な麺。
さらに、その外部には凍てつく天ぷら装甲が施され、剛性と優雅さを兼ね備えた佇まいを見せる。
巨体の背には巨大な丼型のパーツがそびえ立っていた。
そこに湛えられたのは蒼く輝く冷製出汁。
その神秘的な光は、あたかも氷の聖域からもたらされた祝福の雫のようだった。
リーゼロッテはゆっくりと視線を上げ、敵を見据える。
「ふふ、いかがでしょうか?」
「なるほど……。見事な力量だ!」
琉徳は一瞬目を見開いたが、すぐに愉悦の笑みを浮かべた。
彼はゆっくりと腕を上げると、己が操る巨神兵に指示を下す。
白銀の麺が軋みながら動き出し、巨大な拳を握りしめる。
「行けっ! おうどん湯の巨麺兵!!」
「私のグラキエス・うどんロボも……参ります!」
白麺の神・おうどん湯の巨麺兵 vs グラキエス・うどんロボ。
讃岐家秘伝の禁断妖術と異国の水魔法が激突する――。
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