チンピラ集団『海神の怒り』と若手兵士集団『海神の憤怒』。
彼らはクーデター騒ぎの償いとして、日々ボランティア活動に従事していると聞いている。
反省しているはずの彼らだったが、どうやらまだ人族への偏見や嫌悪感は残っていたらしい。
リーダー格の男は、握手した俺の手を強く握る。
同時に、周囲の男たちも動き出した。
「おらっ! やっちまえ!!」
「おうよ!」
「やってやるぜ!!」
彼らは俺を取り囲み、殴る蹴るの暴行を――加えない?
なんだ……?
俺は困惑する。
「ほらよっ! これが『海ぶどうのサラダ』だ!!」
「へへっ! こっちは、『タコの足焼き』だぜ!! 一部界隈で流行りだした、新食感のゲテモノ料理さ!!」
「おら、食えよ! 食えるもんならな!!」
男たちは、料理の乗った皿を俺に近づけてくる。
彼らはニヤニヤしながら言った。
「どうした、どうした? 心なしか、顔色が悪いぜ!!」
「ビビッてんのか? おい!」
「ギャハハ! ざまぁねぇな!!」
彼らは次々と料理の皿を俺に近づけてくる。
いったい何がしたいのだろう?
俺はひたすら困惑していた、そのときだった。
「待て! 宴会の席での狼藉は許さないぞ!!」
一人の人魚が声を上げた。
彼女は……確か……。
「ヨルク! どうしてここに……?」
「もちろん、私もパーティーに招待されていたからだ。そなた――ナイトメア・ナイト殿に挨拶するためにな」
「なるほど……。そうだったのか」
彼女の名前はヨルク。
魔法師団の分隊長である。
俺が作業員のおっさんたちと共に防壁の補修作業をしていたとき、その仕上げとしてやって来た集団のリーダーだな。
ヨルクは結界魔法の使い手だ。
俺も魔力補佐という形で手伝い、防壁の完成度を上げた。
その縁もあって、こうしてパーティーに招待されていたようだ。
「加えて言えば、私はこのパーティーの要人警護も任されている」
「要人警護?」
「ナイトメア・ナイト殿と関わりを持った者は、この里に多数存在する。身分も様々だ。そなたや王族の方々を守るため警戒するのは、当然のことだろう?」
「ふむ……。それは確かにな」
俺はうなずく。
ヨルクは結界魔法の使い手だし、護衛としては適任だ。
それにしても要人警護か。
ちょうどいいタイミングで来てくれた。
チンピラや若手兵士たちに絡まれて、少し困っていたところなのだ。
「ふんっ! 要人警護だと? そんなの関係ねぇぜ!!」
「そうだぜ、ヨルクさんよ!!」
「俺たちは、里の名物料理をそいつに食べさせようとしていただけだぜ!?」
男たちが口々に言う。
ふむ……。
言っていることは、半分ほど分かる。
確かに、彼らは俺に料理を持ってきていた。
それを食べさせようとしていたのだろう。
ならば、要人警護としてのヨルクに出番はない。
理解できないのは、そもそもどうして俺に料理を食べさせたいのかだが――
「ふざけるなっ! 『海ぶどうのサラダ』はまだしも……『タコの足焼き』はゲテモノだろうが! 恩人にこんなものを食べさせるなど、言語道断だ!!」
ヨルクはそう反論する。
彼女は、俺の身を案じてくれているようだ。
しかしそれを受けても、男たちに引き下がる様子はなかったのだった。
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